第94話 家に帰って来ないから
「お願いします。」
セツシート崩壊から半年以上が経ってもミカエルは地上に降りてくることはなかった。
その事に疑問を持っていた俺は聖堂に向かうことを決めた。
「何度も言いますが、グレイさんたちはミカエルに対しての最後の切り札なんです。ですから許可することは出来ません。」
そう決めた時から校長に言っているもののなかなか許可が降りない。
もう塔に入った人が帰って来ない、という事案を受けての対応なのだろう。
「そんな切り札になるくらいの人なら塔に入っても大丈夫ですから、お願いします!」
「だからですね、そういう問題ではないんですよ。」
「でも、そこをなんとか!」
「グレイさん。そろそろ時間ですよ。」
知らないうちに部屋に入って来ていた理事長は俺にそう言った。
そう言われるがまま、俺は理事長に部屋を追い出されるように歩かされた。
「今日もダメか……」
「まだそんな事を言っていたの?」
「目白さん。いつからそこに?」
ため息をついて歩こうとした時、理事長室の横に目白さんがいた。
「少し前よ。」
「何でここにいたんですか?」
「アルバートくんたちからグレイを呼んでくるように頼まれたのよ。」
「それでそのアルバートたちはどこにいるんですか。」
ついて来て、と言って目白さんは歩き出した。
アルバートたちとはつい最近になってやりとりを再開した。
それまでは色々と原因があったがフィオナのことが一番大きな要因だろう。
フィオナのことは、目白さんに家のお手伝いさん、それに家族と理事長と校長にしか伝えていない。
それも踏まえて話をするのが怖かった。
責任を押し付けられるのが怖かった。
「おっ、来たな。」
そう考えているうちにアルバートたちがいる場所についた。
「何で俺の家の前にいるんだ?別に目白さんに言わなくても帰ってくるだろ。」
何故か俺の家の前にいたアルバートたちに聞いた。
家の前にいるのなら目白さんに言わなくてもよかったはず。
「でもグレイ帰りがいつも遅くなってるって言ってたから。」
そう言われて俺は最近の行動を思い出した。
一昨々日は図書館で神について調べていて気づいたら二十三時の閉館時間。
一昨日は街の中を歩いて夜空を見上げフィオナとの思い出を思い出していた。
それで気づけば二十二時ごろ。
昨日は理事長に街の真ん中にある聖堂に入る許可をもらうために学校に居残った。
その後聖堂を見つめフィオナのことを思い出していた。
すっかり日が落ちた頃、家に帰宅。
「確かにな。それで何だ?」
「フィオナちゃんのことについてなの。」
「あの時以降、フィオナちゃんには会ってないけどどこに居るの?」
アルバートの後ろにいたローズとジェイミーが言って来た。
「えっと…」
「とりあえず中で話したら?」
俺が戸惑っていると目白さんがそう言ってくれた。
俺の様子に呆れたんだろう。
「言うならちゃんと言いなさいよ。」
家のドアを開けようとする俺に目白さんが後ろから言って来た。
「それでフィオナはどこに居るの?」
全員が中に入ったのを確認してローズが言った。
「実は、フィオナは……その、ミカエルに腹を貫かれて……そのまま持って行かれたんだ。」
俺の言葉にアルバートは驚きを隠せなかったようだった。
ローズとジェイミーは口元を手で押さえていた。
「で、でも、まだ生きている可能性はあるんですか?」
「ああ。」
ジェイミーの質問に答えると三人の顔が少し明るくなったように見えた。
「その理由はどこから来たんだ?」
「俺は記憶を失っていたみたいだけどアルバートたちはミカエルの声を聞いたか?」
俺の言葉に三人は頷いた。
ミカエルがセツシートに大きな塔を建てた日。
そしてセツシートが崩壊した日。
「天空の巫女というのを覚えているか?」
「まぁ……何となくだけど………」
「そう、だな……」
「はい……」
三人が少し不安げに答えた。
「俺と目白さんはその巫女っていうのがフィオナだと考えている。」
「何でそんなこと……」
「勘だよ。」
あの塔。
ドン・ルナティックにフィオナがいることを願っている。
そう思うしか無かった。
「それであの塔に入るために俺は理事長と話している。」
「なるほどな。」
俺がそう言った時、アルバートはそう言った。
他の三人も急に喋り出したアルバートの方を向いた。
「学校から帰るのが遅いのは理事長と話してたからか。」
「そうかもな。」
そんなに長く話しているつもりはない気がするがアルバートにはそう言っておいた。
「じゃあ、私たちに何かできることはない?」
「今は特にないけど、今後何回か理事長の交渉の時に呼び止めるかもしれない。だから、三人もそれぞれ今よりも強くなってくれ。」
質問をして来たローズだけでなく全員に言った。
「そろそろ辺りも暗いし、帰ったほうがいいんじゃないの。」
横で俺たちの話を聞いていた目白さんが言った。
「うわっ、本当だ…また怒られるのかよ……」
「日頃の行いよ!」
「私たちは怒られませんよ。」
落ち込んでいるアルバートをローズとジェイミーが励ましているのか煽っているのか言った。
「今日は色々とありがとな。」
「たいしたことはしてないけど。」
アルバートにそう言って三人に手を振って俺は家の扉を閉めた。




