第73話 天使の涙
「それでグレイ、朝はごめん。」
家に帰って目白さんに話しかけたら謝られた。
「えっーと。何のこと?」
「その、私子供の頃から寝相が悪くて。」
「別にいいよ。」
もう俺はこの問題には関わらない。
もう知らん。
俺は何も悪くない。
「それで闘技大会に出ることになって、目白さんに剣技を教わりたいのですが。」
「そんな事なら別にいいわよ。明日どうせ午後暇なんでしょ。そので練習するわよ。」
目白さんは何か言うこともなくそのまま了承してくれた。
「はー。闘技大会には出たら碌なことが無さそうなんだよな。」
「兄さん。メジロさんとは何をお話しで?」
廊下を歩いているとフィオナが話しかけて来た。
「いや、闘技大会で剣技が必要だから教えてくれって言っただけ。」
「なら私も教えて貰います。」
「フィオナは、魔法部門だろ?別に剣技は必要ないんだぞ。」
「兄さんがやるなら私もやります。」
そういうチャレンジ精神は大切だな。
「まあいいんじゃないか。目白さんに聞いて来たらどうだ?」
「分かりました。」
正直、総合部門なんて何をすればいいのか分からない。
俺は元々魔法が得意なのにそこに剣を取り入れるなんてどうすればいいのか。
「まだまだ道は長そうか。」
今朝の目覚めは最高だ。
今日は何も悪いことはない。
目日さんは朝早くに家を出ていき、今ベッドには俺とフィオナだけだ。
「今日からまた学校が始まるのか。」
少し気だるさを感じながらもベッドから出る。
「兄さん。もう少しだけ一緒に寝ませんか。」
フィオナがベッドの中から誘って来た。
「まあそうだな。」
二度寝はいけない、と思いながらもベッドに引き寄せられるように戻って来た。
「兄さん、覚えていますか?」
「何を?」
ベッドで横になるとフィオナが聞いて来た。
「入学試験の時、こうやって一緒に寝ていたのを。」
「あぁ、今でも鮮明に覚えている。」
今振り返ってみれば懐かしいな。
「兄さんは、私のことが嫌いなんですか?」
急に何を言い出したんだ?
「嫌いなわけないじゃないか。」
「だって兄さん。最近私に全然かまってくれないじゃないですか。」
「俺は最近もう、疲れているんだ。」
疲労が体に蓄積されている。
未来のセツシートへ行き、海底都市へ行き、大忙しな日々だった。
「本当ですか?」
「あぁ、元気になればフィオナの言うことも付き合うと約束するよ。」
「嘘じゃありませんか?」
「本当だ。」
俺は今すぐにでもこの状況から逃げ出したい。
何だろう。
すごく気まずい。
「じゃあ信じていいんですね。」
俺は頷くと、フィオナがベッドから出て言った。
「では、学校へ行きましょうか。兄さん。」
「ああ。」
その頃、グレイの両親達は。
「アーシャ、グレイを探しに行くぞ。」
ナックルは荷物を持ってそう言った。
「ナックル様。お待ちください。」
ヘレナさんが部屋から出て行こうとするナックルを止めた。
「ヘレナ、もうこれは今までみたいに待っているだけではダメだ。俺たちは全員でグレイとフィオナを探しに行くぞ。」
この時、アーシャとヘレナは気づいた。
ナックルは一度決めたことは曲げることはない。
だから、こう言い出してしまえばもう止めることはできないと。
「分かりました。アーシャ様。今すぐ準備をしますので少しお待ちを。」
ヘレナが急いで荷物をまとめ出した。
「でも、どこに行くの?」
「まずは、セツシートだ。」
「本当に言ってるの?」
「ああ。」
セツシートまでは馬車で行っても七日は掛かる。
「もちろん馬車が何かを使うのよね。」
「当然、歩いては行かないさ。馬車で行った方が早いからな。」
そこは冷静で少し安心したアーシャだった。
「ナックル様。ご準備が整いました。」
ヘレナが大きくバックを持って出て来た。
「よし、じゃあ行くぞ。」
そう言ってナックル達はグレイとフィオナを探すために家を出て行った。
「そういえば、目白さんってここに来る前どういう感じだったんだ?」
学校に来て目白さんに聞いてみた。
「そうね。ま、勉強をそこそこして成績もそこそこ良かったの。トラックのアルバイトもしていたんだけど、突然トラックがパンクして道に突っ込んだのよ。」
色々と大変なこともあるな。
「それで当たった人を助けるためにトラックから出たんだけど、ガソリンに引火して爆発したの。」
「それで気づけば女神様がいたのか。」
「ええ。」
悲しい死に方だな。
そんな死に方しないようにして欲しいな。
「じゃあ、目白さんあとで剣技教えて下さい。」
「ええ。」
そう言って俺は図書館の方へと向かった。
調べたいものがあるのだ。
人の命はどのくらいの魔力になるのか。
そして、未だかつて誰も使うことの出来なかった魔法、天使の涙について。
神が使う魔法を再現した幻想魔法。
術式自体は完成し、理論上世界を破壊するほどの威力を誇る魔法。
だが、人間には使うことができない。
魔力も足りないし、何より肉体が耐えきれない。
それについて俺は調べたかった。
神が降りてくるのは、何を言おうこのセツシートなのだから。




