第72話 闘技大会
俺は今、非常に難しい問題を解いている。
想像して見てほしい。
朝起きてみれば右側には妹。
左側には同級生の女子。
これだけでもかなりまずい状況なのだが、ここからが難しい。
左側で寝ている同級生、つまり目白さんのことなのだが恐ろしいくらい寝相が悪い。
右側で寝ている妹のフィオナは壁側を向いて寝ている。
俺はというと目白さんの方向を向いて寝ている。
そして、目白さんもこちらを向いて寝ている。
「ほら、もっと…抱きしめてよ……」
文字通り目白さんは寝ている。
寝言を聞かれただけでフィオナは怒るだろうが光景がもっとマズい。
俺はもう動くことはできない。
なぜなら俺が起きた時、俺の体は目白さんに抱きしめられていたからだ。
実際に動けないというわけではない。
が、動けば確実に目白さんを起こしてしまう。
そこで俺が取った最適な選択肢。
寝たふりだ。
「ねえ、なんで……何で離れるのよ………」
ただこれには問題がある。
目白さんの口から発せられるあらゆる言葉に動じてはならないのだ。
先ほどからずっと内容の気になる言葉ばかり話している。
誰か、誰かこの状況を打破してくれる人はいないのだろうか。
そんな俺の心の言葉に応じるかのように右側で音がした。
「んっー。今日もいい天気ですね。兄さんっ……」
「………………」
フィオナが言葉を詰まらせたが俺は動かない。
動けば間違いなく俺に矛先が向く。
「兄さん。何をやっておられるので?」
「………………」
俺はもう目白さんが起きるまで絶対に起きない。
「目白さん。目白さん!起きてください!」
俺ではなく目白さんを先に起こしたか。
非常にまずい。
多分、それは俺の予想を遥かに上回ってくる事態が起きるだろう。
「ん。朝から何よ。って、グレイは何をやってるのよ!」
おいおい、それは目白さん。
あなたの方ではないだろうか。
目を少し開けると抱きしめながら顔を赤らめ下を向いていた。
あぁ、マズいかも。
同じ日本人として、こんな顔を見せられたら目白さんの方へ落ちそうだ。
「目白さん。やっぱり兄さんを……」
うん。
これはもう俺にはどうにも出来ない。
「兄さんを狙ってっ!」
俺のことを未だに抱きしめていた目白さんの手を払いフィオナは自分の方へ引き寄せた。
「フィオナ。何を言っている?」
「そう言っても、もう私は見たんですからねっ!」
俺のことを抱きしめてフィオナが言った。
端的に説明すると、フィオナは目白さんが俺のことを好きだと思っている。
だが、実際には全く違う。
その勘違いを説明しようにもこのことがあったからにはもうフィオナの意見は覆らないだろう。
「朝から何を言っているんだ?」
いかにも、今起きましたよと言わんばかりの口調で言った。
「ひぁ!兄さん。あのですねこれは……」
そんな慌てないでも全部聞いてたから大丈夫だぞ。
「グレイ。フィオナはきっと今、大変なのよ。少し考える時間をあげましょう。行きましょう。」
何でそんな事を言ってしまうんだ。
確かに目白さんから見てみると励ましの言葉になるのだろう。
でも、これは今のフィオナから見ると煽りにしか聞こえない気がする。
「そうなのか。フィオナ、お前も色々大変なんだな。」
この件に関しては俺は目白さんの肩を持つ。
何ともならなければいい、と思いながら寝室を逃げるように出て行った。
今日は学校から呼び出しが掛かったので行かなければならない。
朝の件に関してはフィオナはまるで無かったかのように目白さんに接していた。
最も何も知らない目白さんは意味がわからなさすぎて少し戸惑っていたが。
学校に到着し本部棟の最上階にある校長室に入る。
「失礼します。」
「グレイさん!生きていて本当に…本当に良かった。私たちのせいで危険な目に遭わせてしまい申し訳なかった。」
その場に校長は頭を下げた。
「そんな、今こうして帰って来たんですし、頭を上げて下さい。」
「本当にいいのですか?」
半分頭を上げた状態で校長が聞いて来た。
「はい。」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
校長は俺に対して何度も辺りを下げた。
「では、改めてグレイさんが覚えている限りでいいのでお話しして下さい。もちろん話したくないところは話さないで結構ですので。」
校長は、禁忌魔法陣の中に入った俺や目白さん、そして海底都市にいたフィオナ達に状況を聞いている。
どうやらそれで昔の歴史などが分かるらしい。
それから俺は覚えている限りのことを話した。
未来のセツシートのこと。
九つのダンジョンのこと。
海底都市のこと。
「これが僕が見た全てです。」
「本当に色々と教えていただきありがとうございます。ところでグレイさんはも闘技大会についてはご存じで?」
「はい。」
闘技大会は毎年セツシートで行われていた大会だ。
「今年から大規模なルール変更がございまして。」
以前までは高学年しか参加が出来なかったから興味が無かったのだが。
「実はですね今年から全ての学校の参加が認められまして。魔法部門、剣技部門、総合部門の三部門でになり、各学校の代表四名、推薦一名の各五名の参加になりまして。」
それは確かに大規模だ。
「それで推薦をフィオナさん、メジロさん、グレイさんにしていまして。」
なら俺が出るのは魔法部門だな。
「グレイさんには総合部門にでてもらいたくてお願いしたいのですがよろしいでしょうか。」
何でそうなったんだよ。
フィオナが魔法部門で目白さんが剣技部門か。
「エキシビジョンマッチも今年から追加されまして更に大きな大会になったんですよ。」
どんだけルール追加してんだよ。
「魔法部門の優勝者と剣技部門の優勝者が戦い勝った方が総合部門と戦うのです。」
まあ、総合部門は魔法も剣も使えるから少しは考えてあるのか。
「分かりました。」
「本当ですか!ありがとうございます。今年初の大規模な大会なのでセツシート大学は三部門制覇を狙っておりますので。」
なんでそんなプレッシャー言ってしまうんだろうか。
俺には到底理解することができない。
「では僕はこれで。」
「はい。明日からもよろしくお願いします。」
そうか。
明日からまた学校が始まるのか。
家に帰ったら目白さんに剣について教わらないとな。




