外伝:ウィリアムの生涯
「ここは……」
私が目を覚ました時にはここへと来ていた。
「確か私は、あの施設で研究を……」
思い出せない。
思い出すことができない。
まるでそこだけぽっかりと大きな穴が開いているかのように抜けている。
「お前は古代の先人によって世界から追放されたのだよ。」
女の声がふと聞こえてきた。
「ここへの来客なんて何年ぶりだろうか。」
城の扉を開けた女はこちらへ近づきながらそう言ってきた。
直後、私の腹からとてつもない痛みが襲ってきた。
「グッ……アァッッ!!!」
「この海底都市にきた奴は皆こうしているのだよ。」
その言葉を最後に私の意識は途絶えた。
「ああ、やっと起きた。」
「心配していたのよ。マヨルダ様が勝手に体を刺すから一時はどうなるかと思っていましたのに。」
俺の目の前にいたのは二人の女だった。
「私は……」
床から立ち上がりながら私は言った。
「あなたは、古代の先人たちに追放された。そのせいで今ここにいる。」
背の高い女が言った。
「ここは、海底都市。私たちはロストタウンと呼んでいるわ。私はこの城の城主マヨルダ。ついでに言うと城を建設したのもこのロストタウンに来たのも私が最初。」
「私はメランダ。二番目にここへ来たの。」
私の目の前にいた女が口々に答えた。
「私はクリストファー。同じ男子同士仲良くしよう。」
女たちの後ろから男の声が聞こえてきた。
「私はゲルメール。マヨルダ様に切り刻まれて貴方のようには修正されずこの姿に……」
「それは言わないって約束でしょう。」
メランダが膝下くらいまでしかないサイズのゲルメールを掴んだ。
「も、申し訳ございませんでした。」
メランダは謝罪の言葉を聞き入れると手を離した。
「最初から殺してしまって申し訳なかった。でも、これをしないと以前私を殺そうとした愚か者が居ってな、管理するためなんだよ。」
メランダとゲルメールのやり取りを見ていたマヨルダが言った。
「それで俺はここで何をすればいい?」
「別に何もしなくていい。好きなことをしてくれて構わない。だが、私の言う事は守れ。」
その言葉を最後にマヨルダは部屋から出て行った。
ー1ヶ月後ー
「ったく、マヨルダをいい奴だと思った俺が間違いだったよ。」
「そんなこと言うなよウィリアム。」
「しかしだ、クリストファー。あいつは何も分かっていない。」
「まあまあ、そう言わずに。」
私とクリストファーが作った研究所へと続く道を歩きながら話した。
海底都市へ来てもう1ヶ月が経ちやっとこさ全てがわかってきた。
どうやらここは古代の先人というやつが作ったようだ。
「ここから脱出できるんだぞ!このホッ・カイドウという神に滅ぼされ古代の先人によって復元された海底都市を脱出できるんだぞ。」
「じゃあ、俺たちだけで脱出すればいい。」
「そんなことできないだろ……俺たちにはこの……」
そう。
1ヶ月前、俺はここにきた時に殺された。
その時に絶対に逃げられないようにマヨルダが体に何かを仕込んだ。
そのせいで今日まで脱出することが出来なかった。
「そんな支配を消し飛ばすほどの力を得ればいい。」
クリストファーの口から出たのは予想外の言葉だった。
「そんな力どこに……」
「あんたが着ている白衣は何なんだよ。」
どうやら、クリストファーは俺にその力を作って欲しいようだ。
「時間がかかるぞ。」
「待ってやるよ。いつまでも。」
ー104年後ー
この空間内において時間という概念がないということがわかった。
「つまりだ、俺たちは歳を取らない。でも、記憶は蓄積されやがて限界を迎える。」
「それまでに完成する事は可能なのか?」
研究所内で薬品の調合をしながらいつものように雑談をしていた。
「多分な。」
この96年間、私は結界を破るために必要となる体の筋肉を膨張させる薬を作ることに集中してきた。
表面では筋肉が衰えるのを防ぐ薬と言って報告しているが裏ではここから脱出するための材料となる。
「その試作はどうなんだ?」
「今から試すところだ。見るか?」
私は実験用の動物を持ってきて薬を液体状にした物を与えた。
「著しい進化だな。」
液体を舐めた動物は体が膨れ上がり元の姿とは全く違う形になった。
「後はこれを人間が耐えれるようにするだけだな。」
やっと希望が見えてきた。
ここから脱出するための希望が。
私たちは今、マヨルダへの定期報告のために城へ向かっていた。
そんな希望が見えてから数年が経ち私たちはある大きな問題を抱えていた。
「クリストファー。この薬なんだが、最後の実験をする為に人間が必要なんだが。」
「ここには俺たち以外の人間は存在しないよ。」
聞いてからすぐに返事が返ってきた。
「それも含めてマヨルダ様に聞けばいいんじゃないか?」
城の会議室の扉を開けて中に入った。
「さて、全員揃ったところで皆に伝えるべきことがある。海底都市に新たに人間がやって来た。しかも、8人もだ。」
会議室でみんなが小さな声で話し始めた。
「最後まで聞け。その客人たちを捕まえて欲しいのだ。捕まえた人間は好きに使っていい。私はこれ以上、人間は支配する事は難しいのでな。」
これだ。
私がこの空間に来た人間を捕まえてそいつを実験体として一生使おう。
そう決めた。
「だが、殺すなよ。」
その一言で私はどん底に叩き落とされたように思えた。
薬を投与すれば死ぬ事があるかもしれない。
もし殺せば私の体に埋め込まれたマヨルダの魔法で内側から粉々にされるかもしれない。
「っくそ、あのクソ野郎。また自分の都合だけを……」
城の中を何の意味もなく何周も何周も歩いていた。
そう考えながら城を回った時に異変は起きた。
通路に人が転がっている。
しかも、腹が貫通している。
これだけで私は誰がやったのかを理解した。
マヨルダだ。
「こいつを治して使おうか。」
不意に頭にそんな事が頭に浮かんだ。
「俺が親切に助けてやったのに何なんだよあの態度は。」
助けた少年は魔力の量は素晴らしく多かった。
そのため薬の副作用で暴れられたら大変なので地下にいるウィリアムに送った。
「クリストファー。そいつはもう俺には必要ない。」
「本当にいいのか?こいつ魔力とか全て凄まじいが……」
「いいんだよ。好きに使ってくれ。」
私に協力してくれれば少年は薬を打ち込まれることもなかっただろうに。
そう思いながら私は薬をケースの中に入れようとしていた。
「誰かいるのか。」
後ろに気配を感じた私はそう言った。
「そっちこそ誰なのよ。」
後ろの柱から一人の少女が出て来た。
そこからは私の判断は早かった。
少女はメランダの手先で、私の計画を知り薬を奪いに来たのだと考えた。
ここまで来て薬を渡すわけにはいかない。
そう考えた私は薬を信じて右肩に注射器を打ち込んだ。
体に激痛が走り意識がだんだんと奪われていった。
気づいた時には私を家族のように扱ってくれていたクリストファーを串刺しにしていた。
自分のことをひどく憎み苦しんだ。
力を使い目の前にいた先ほどの少年を殺そうとした。
だがそんな事はできなかった。
私は研究所の命とも言うべき電力制御室を破壊したのだ。
その恐るべき電力に私は感電して心臓が止まりかけた。
薬のおかげなのか生き残る事はできたが、私は薬についてようやく全てを理解した。
そこで自分の限界を悟った。
体は動かなくなりただただ死ぬのを待った。
『マヨルダ城、及び施設の破壊が3分後に行われます。』
そんな声が聞こえて来た。
これは、薬を投与した後、城を爆破しその混乱の間に逃げるために用意した物だ。
誰かが押したのだろう。
私はここで死ぬだろう。
だが、運命が動き始めるという事は分かった。
この永きに渡る海底都市の結界破壊という偉業が成し遂げられるような気がした。
「本当に、ろくでもない人生だったな……クリストファー。俺も…もうすぐ、お前のところに行くからな………」
そうして私は長い長い人生を振り返りながら、研究所の爆発に巻き込まれ死んだ。
第五章 海底都市編-完-




