第36話 状況説明
「皆様おかえりない。もう夕食の準備はできていますよ。」
入り口の奥の方にテーブルが置かれていた。
その上にノアが夕食をどんどん並べていっている。
外見から見てテントはこんな大きさのテーブルなどは入るはずないのだが、兄さんが学校の馬車にかかっている縮小魔法を見てテント自体にかけることを思いついたらしい。
まさか縮小魔法にそんな使い方があるとは私も頷いてしまった。
「じゃあ、私こっち!」
「では私はこちらで。」
「ちょ、お前らずるいぞ!早い者勝ちだなんて。」
まるで子供のようにはしゃぎながら自分の座る席を決めていた。
「これすごく美味しい!ほおがとろけるような美味しさだわ!」
ローズがフォーク片手にほおを触ってみんなに言っていた。
「俺はこっちの方が好きかなぁ…」
と先ほどとは違う方向を指差していった。
「私はこちらの方が好きですかね…」
ジェイミーは、前の二人とは違う方向を指差して言った。
「あ、そういえば夕食の時にグレイの事について話すって言ってなかったか?」
「そういえばそうだったわね。校長ったら何も話そうとしないんだから。」
ため息をつきながらローズが言った。
「———と言うことがあって私が無能なばかりに兄さんは禁忌魔法陣で…」
先ほどから高学年進級試験であった出来事について全てを話した。
もちろん転移魔法陣がなんなのかも全てを嘘偽りなく話した。
「フィオナさんは何も悪くないです。私だって魔法陣が重なってたら分からなくなります。」
「ジェイミーの言う通りよ。フィオナは何も悪くないわ。逆にその一瞬で禁忌魔法陣ってことがわかったのがすごいじゃないの。」
とみんな私のことを励ましてくれていた。
「でも、なんで試験会場に禁忌魔法陣なんて置いてあったんだ?しかも、グレイが古代の先人たちの国から来た人しか通れない魔法陣を通れたのってどういうことだったんだ…」
アルバートは、手を顎に置きいつもと違い真剣な顔で考えていた。
「それも不可解ね。試験会場には事前に教師が危険がないか確かめるはずだし魔法陣も念入りに調べるはずよね。」
「学校側が二重に魔法陣が重なっていることを見逃すはずがないですし、考えたくはありませんが…」
ジェイミーはそこまで言って口を閉じてしまった。
すると何かを察したのか全員が前を向き目があった。
恐らくだがここにいる人が考えていることは同じだろう。
学校側に禁忌魔法陣を置いた者がいた、
ということだろう。
「…そんなはずないだろ。だって…学校は…」
アルバートが席を立って答えた。
落ち着くことができないのは仕方がないだろう。
もし、黒幕が学校の中にいるとしたら今回のように魔法陣に魔法陣を重ねたり、魔法陣自体を変えて殺すことだって出来るはずだ。
学校内にいる黒幕が私たちの動きを知り、今回のように試験中に殺されてしまうという可能性だってあり得る。
その事実に気づいてしまえば動揺を隠せないのも仕方がないだろう。
「落ち着いてください。今回はあくまでもグレイ様を見つけること。この事は後で考えましょう。」
「しかも、今回の黒幕が学校に居るとしてもそんなに早く私たちを殺すなんて事はしませんから。」
向かい側で座っていたノアとマロンが言い聞かせた。
こういう時に冷静に物事を対処できるところが二人の強みなんだよな。
「二人の言う通り今回は兄さんを探しに来ました。この件についてはまた考えましょう。」
ノアとマロンに続いて私も他の三人に言い聞かせた。
「そう…だよね…」
「グレイならこんなところで挫けないよな。」
「ええ。こんなところで怖気付いていてはいけないわ。」
こうして三人ともどうにかもと気持ちを取り戻してくれた。
とはいえ今回のことは事前に屋敷でノアとマロンから聞かされていたから動揺はしなかったが、驚きを隠せなかったのは事実だ。
—三日前—
「あの…フィオナさま。至急お伝えしたいことがありますのでお部屋に入ってよろしいでしょうか?」
扉を叩きながら聞こえてくるこの声はノアだ。
伝えたいこと、というのはなんだろうか。
そんなに急ぐ必要があるのだろうか。
「ええ。入っていいわよ。」
ドアの前まで行き鍵を開けてドアを開けた。
外で待っていたノアを中に招き入れて椅子に座ってもらった。
「それで、話というのは何?」
「はい。以前頼まれていました高学年進級試験での事前に行われる下見のチェック項目について書かれた紙なんですけど…」
と言って一枚の紙をこちら側に差し出してきた。
高学年進級試験安全チェック項目
・転移魔法陣について
・出現モンスターの危険性について
・ダンジョンの強度について
以上の項目のどれか一つでも異常をきたしていた場合すぐさま報告、後に対処すること。
と書かれていた。
「この紙のここに引っ掛かりまして…」
ノアはチェック項目の書かれた紙の転移魔法陣についてと書かれた項目の場所を指差した。
「この試験の安全性をチェックする教師はそれぞれの分野に適した者が確認するようなのですが魔法陣をチェックしていた場合、禁忌魔法陣くらい見つけられると思うのですが…」
「確かにそうね。」
ノアの言う言葉に対してあいづちを打ちながら聞いた。
「それで、禁忌魔法陣は誰かが意図的に置いた者ではないかと考えまして…」
そこまで言うと顔をこちらに向けてきた。
ここで初めてノアが言いたいことに私は気づいた。
「つまり、学校内に禁忌魔法陣を試験前になって置いた者がいるかもしれないと言うことでいい?」
一応念のためにノアに聞き返した。
「はい。私たちはそう考えたのですが、フィオナ様はどうお考えになったのでしょうか。」
「それは、あなたたちと同じように学校内に黒幕がいると考えているわ。」
そう言っていると、部屋のドアが開かれた。
話しているのにノックもせずに入ってくるなんて、と思いドアの方を見る。
「フィオナ様に至急お伝えしたいことがありお部屋に参りました。ノックもせずに入ったことは大変無礼に思いますが急いでフィオナ様にお伝えしたかったので申し訳ございません。」
そう言って扉の外に立っていたのはマロンだった。
小走りに私たちがいるソファの方へ来ると私の前へ立った。
「実はですね、グレイ様の捜索に当たってもらっていた第二チームが先ほどの屋敷に戻ってきまして禁忌魔法陣と思わしきものと座標が設定されていない転移魔法陣がありまして…その…何か捜索の助けになればと急いで参った次第です。先ほどのご無礼をお許しください。」
お帰りなさい、とはまた違うお辞儀をして私の方へ謝ってきたが今はそちらではない。
兄さんを探す手掛かりが見つかったことが一番大きなことだ。
たとえ小さなことでも集まれば大きくなる、と兄さんは言っていた。
「マロンはそれだけ大事な情報を私にいち早く教えてくれたもの。さっきのことは気にしないで。」
と言ってお辞儀をしているマロンの肩をポンと叩いた。
「そう言っていただけると嬉しいです。」
「それにしても座標が設定されていない転移魔法陣に禁忌魔法陣とは…」
ノアがマロンに横に座るように目で指示しながら言った。
「もうすぐ中学年も終わるし、私が現場に向かうわ。」
「そんな…危険もありますし…」
慌ててノアとマロンが止めようとしていたので急いで次を言った。
「他のみんなは兄さんを探しに行っているのに私は屋敷でダラダラしているなんていけません!」
と言い切った。
「そこまで言うならば私たちは何も言う権利はありませんが危険を感じたらすぐにここへ帰ってきてくださいね。」
とノアが言いマロンもノアの意見に賛成しているように見えた。
こうして兄さんを探す旅が始まった。




