第35話 出発日
兄さんを探しに行く日の朝、アルバート、ジェイミー、ローズの三人は家の前に集まった。
家の前に集合したのを確認してノアとマロン、それに続いて私が家を出た。
もしもの時は兄さんからもらった魔法石があるから大丈夫だとは思うがやはり家を開けるのは不安だ。
「あっ、もういつまでここで待たせるつもりだったの?」
家の門の前でローズがこちらに向かって叫んできた。
あんなことをいっているが、家の前に来るのが早過ぎただけだ。
ローズは、他の二人よりも十分近く集合していた。
「それはローズが早く来すぎただけでしょ。」
門を開けながら答えた。
「それはそうだけど…」
先ほどとは違い落ち着いた声で言ってきた。図星だな。
「あの…フィオナちゃん。失礼ですがこのお二人はどなたなのでしょうか…」
今度はジェイミーが声を小さくして聞いてきた。
「兄さんを探しに行く際の万一のための護衛のようなものよ。」
そう言うと後ろでノアとマロンは礼儀正しくお辞儀をした。
「今日より少しの間ご一緒させていただきますノアと」
「マロンです。」
「何をモタモタしてるんですか。時間がないんですから早く行きますよ。」
固まっている三人を置って歩くとするとすぐに「待ってー」と言いながら後ろから追ってきた。
セツシートを出てしばらく経ち私たちは森を歩いていた。
「なあフィオナ。その…そこにいるノアさんと…」
「マロンです。」
アルバートが迷っていると最後尾を歩いていたマロンがすぐに言った。
「マロンさんは、どれくらい強いんだ?」
「それなりには強いですよ。少なくともあなた達よりは断然強いと思います。」
とそれだけを言っておいた。
言葉で説明するのは難しいから実際に見てもらった方がいいだろう。
その時、大きなクマ型のモンスターに遭遇が森の茂みの中から出てきた。
ノアとマロンに目で指示を出した。
すると、すぐに意味を理解し前にいたモンスターに向かって火炎球を放った。
この魔法を使わせたのは意味がある。
火炎球は、魔法を学ぶ上では避けられない原初の魔法の代表的なものであり、たいてい誰でも使えるからだ。
そんな魔法でも努力次第で強敵も倒せると言うことを言ってやりたかったのだ。
「「「はああぁぁぁ。」」」
三人はノアとマロンの攻撃が終わり地面に転がって黒焦げになっていた先ほどのモンスターを見た瞬間全てを理解した。
その後驚きを覆い隠せず感嘆の声を漏らしてしまっている。
「ノアさんとマロンさんはどうして強いんですか?」
「そうですね。我々はグレイ様やフィオナ様直々に魔法などを教えているから、とでも言っておきましょうか。」
ローズの質問にノアが冷静に伝えた。
でもその魔法を教えてくれたのも兄さんだからなと心の中に思いながら聞いていた。
それからというものモンスターが現れてもすぐにノアやマロンが倒してくれたため私たちを守るのに連れてきたのに逆に守られるというおかしなことになった。
「では今日はこの辺で泊まりましょうか。あまり暗くなってからだとモンスターに襲われたりするので。」
森の少し開けた場所に出るとマロンが魔法空間から全員が泊まれるテントというものを取り出して組み立てていた。
このテントも兄さんが考案してくれたもので素早く準備ができてかつ雨風も凌げる優れものと言っていた。
「野営するってこと…です…か……」
絶望的な顔を見せてジェイミー私の方に聞いてきた。
セツシート大学の図書館の本に書いてあったが野営というのはある程度の強さはないとできないらしい。
まず、モンスターのひしめく森の中で寝るんだから誰か見張をしなければいけない。
次に、食事の準備をするだけで匂いを嗅ぎつけたモンスターが寄ってくるので注意が必要だ。
最後に、そんな状況に置かれているのに睡眠が取れるかということだ。
そんなことが書かれているからあんなことを言ったのだろう。
「そんな一日ではつける場所じゃないんですよ。なんと言っても目指す場所はホッ・カイドウ島があった近くにあるダンジョンなんですから。」
近くでテントを建てていたノアが私が考えている間に説明してくれた。
距離にして大体1300キロメートルかかると事前に教えてもらったが今考えてみたら気が遠くなるほどの距離だ。
でもこれも兄さんが消えた禁忌魔法陣と普通の転移魔法陣が重なったダンジョンで少しでも多く兄さんの情報を得るためだ。
やらないと言って諦めるわけにはいけない。
「ホッ・カイドウ島だって!それってあれだろ。神によって滅ぼされたあの島だろ。」
アルバートが驚きを隠せず私に向かって言ってきた。
「そういえばなぜそこに向かうのか話すのを忘れていましたね。食事の時に最初から全てお話ししますから今はノアとマロンを手伝いましょう。」
二人でテントを建てていたノアとマロンの方を指さして言った。
「それでは私たちは今晩の料理をお作りしますのでごゆっくりしてください。」
今日の夕食を作ってくれるのはノアとマロンだ。
料理を作っている間は特にすることがないのでせっかくならと思い連れてきた三人の魔法の訓練をしてやろうと思い声をかけたところ…
「フィオナさん直々に教えてもらえるなんて光栄です!」
とみんな同じような返事をしたので夕食が出来るまでの間、森の中にいるモンスターを相手に訓練をしようとしていた。
「まずは三人で森の中にいるモンスターを倒してみて。」
入学試験の時に兄さんが使っていた魔力を薄くして周囲に放つ魔法でモンスターを探した。
近くにちょうどいい大きさのモンスターがいたのでその方向に案内した。
「それじゃあ頑張って。」
私は上空に飛行魔法で見守ることにした。
何秒も立たないうちに前の茂みから最初に出てきた大きな熊のようなモンスターが出てきた。
「まずは、俺たちで今撃てる中で最大限の魔法を撃つぞ。」
アルバートがモンスターを見た瞬間、素早く他二人に指示を出した。
「わかったわ。」
「分かりました。」
「よし。それじゃあ行くぞ。」
合図とともにアルバートは水砲、ローズは火炎砲、ジェイミーは雷砲、とそれぞれの得意な属性の今撃てる中での一番上の階級のレベル8の魔法を使いモンスターに撃ち込んだ。
すごい音が鳴り、あたりに土煙が舞ったが、すぐにモンスターの起こした風によって視界が取り戻された。
「ごあぁぁぁ!」
モンスターの大きな咆哮と共に三人のいる方向へと突っ込んでいった。
「みんな!魔法障壁を!」
ローズが言った時にはもうモンスターは目の前に来ていた。
これで三人の実力は大体わかった。
「氷塊槍!」
これ以上戦って実戦に支障が出ては困るので上空から威力を少し弱めてモンスターに向けて撃った。
思い返せばこの魔法も威力の制御も全部兄さんがいなければどうにもならなかっただろう。
自分がどれだけ兄さんに甘えてきたのか考えると胸が苦しくなる。
「す、すげぇ、」
そんなことを考えていると下の方で魔法障壁を張ろうとしていたアルバートが後退りしながら言った。
モンスターは、体の真ん中あたりに氷の槍が貫通して地面に刺さっていた。
「これから何回も野宿をすることになるだろうし、移動中に今日見させてもらった戦闘方法の欠点について話すわ。もう夕食が出来る頃だし行きましょうか。」
「歩こうとするとなんか頭がくらくらするんだけど治せないの?」
先ほどの位置からそんなに動いてない場所でローズが聞いてきた。
この年齢でレベル8の魔法を撃ったら少しはそういう現象にはなるだろう。
「魔力切れの一歩手前だと思う。一晩寝ると治るからそれまでは我慢ね。」
一晩寝るということ以外今はまだその症状の治し方はわからない。
でも、魔力切れは一日経てば治るのだからそれとほぼ同じと考えていいだろう。
「じゃあ、今日は飯を早く食って早く寝ろ、ってことだな。」
アルバートがローズに向けていうと。
「そういうあんたも魔力はほぼ残ってないんでしょ。」
と少し顔を赤らめて言った。
「お二人とも。そんな仲良く言い合いのようなことは…」
「「仲は良くない!」」
助けに入ったジェイミーが一番攻められているように見えてしまった。
そんな会話をしているが、全員魔力はギリギリだった。
あと一回でも魔法を使おうものならすぐに地面に倒れていただろう。
そんな会話をしながら私たちは夕食を作って待っているノアとマロンのもとへと向かった。




