第18話 1学期期末試験
期末試験というのはなんとも言えない気持ちになる。だが、今回はそんなことにはならなかった。なぜなら、どの教科も思っていたほどの難易度ではなかったからだ。
国語のフェイトフル・ホーナーもわざわざ本屋に買いに行って読んだ。
この世界はまず魔法ができる前の話だったらしい。
だから、今はもう作り方さえ存在しない銃やナイフを使ってモンスターに立ち向かう話だったが、儚くその中に何か美しさが秘められていた。これは素晴らしい作品だった。
実際テストの問題は、時系列をカタカナで表す問題や言葉の時系列を並び替える問題などだったがどうせどんどん難しくなるのだと予想がついた。
「フィオナ。試験どう思う?」
1日目が終わり帰り道にフィオナに聞いてみる。
「そうですね。算数が少し計算ミスをしたのではないかと思い不安ではあるんですけど、他は特に何も思わなかった難易度でした。」
やっぱりフィオナもそう感じてしまっていたらしい。少し簡単すぎるがおそらく点を取らせるつもりなんだろうな。
「明日の実技試験生徒の相手をしなきゃいけないんだけど大丈夫か。」
「はい。授業を見させていただきましたが、特に強そうな生徒はいませんでしたので。」
そうか。自信満々だな。別に負けなかったらいいんだけど。
実技試験の会場は大フロアで俺とフィオナと校長の3人に分けられた。1年生の魔法科の人全員を集めて校長が試験の内容を話し出した。
「私の横に立っているのは、グレイ・ジュリエットくんとフィオナ・ジュリエットさんです。私とこの2人で実技試験を行います。試験の方法は簡単です。7組と8組はフィオナさん、9組と10組はグレイさん、残るは私と1体1で戦ってもらいこの1学期で教えたことを見せてください。時間は5分間です。じゃあ質問がある人は……」
「その試験官を倒したらどうなるんですか?」
「特待生に昇格できます。それでは出席番号順に戦ってもらいます」
まぁ、俺たちを倒すのは無理だと思うけどな。
それをわかって校長も戦闘不能にしたら特待生になれると言ったんだろう。
俺とフィオナは自分の組のブロックに移動する。
3つのブラックに分けられその境界線には魔法障壁があり向かい側に行くことはできない。
「9組の1番の人はこっちに来てください。」
優しい声で試験を受ける1番の人がやってきた。
「特待生だからって俺は容赦なく倒しに行きますよ。」
威勢よく男子生徒が俺に向かって話しかけてきた。
この試験はあくまで相手の授業の理解度を見るものであって戦闘をすることが目的ではないから絶対とは言わないが原則攻撃魔法を撃ってはならないと事前に校長から言われたので俺は授業で習った立ち回りなどを中心に見てしっかりと点数をつける。
多分フィオナもやると思うが、少し大雑把だから点数がつけられるか心配だな。だが、今はそんなことを考えている暇はない。目の前のことに集中しないとな。
試験開始の合図が出されるとともに炎魔法をいきなり撃ってきた。
レベル4だが十分に殺傷性はある。
これはやばいなと思ったが、魔法壁は使ってはならないという言葉を思い出しとっさに思い出し水球を撃つ。
即座に水が蒸発し辺りが白くなり視界を奪われる。
これは5月の半ばの授業で相手の視界を奪うというコンセプトで校長が授業をしていたが恐らくその内容を理解しての行動だろう。試験の説明と授業内容を聞いていたという証拠だ。
これはだいぶいい点数がつけられるな。
じゃあ、視界をいきなり取り戻されたらどうするのかな。
本来ならここで視界を失っているところに魔法を撃つがその前に視界を取り戻されたらどうするか。
そう思ってウインドブリーズというレベル2の扇風機の強くらいの風を吹かせて辺りの白い煙を吹き飛ばす。
すると対戦していた相手はそれを予想していたかのように電気球で俺を麻痺させようとしたので横によけるとその後ろから炎球が出てきた。
電気球の後ろに重ねたんだろう。もうこの人は加点だ。
100点!ここまでやばかったのは初めてだ。俺じゃなかったらあの炎球を水球で蒸発させることは不可能に近かっただろう。
そこで5分が経ちベルがなった。
「やっぱり、特待生はすごいな。でも絶対俺はあんたと同じ場所に着いて見せるからな。」
「いや。最後のあれはだいぶやばかったよ。もう少し反応が遅れたら焼けこげていたよ。」
そう言って出口に出て行った。
それからというものさっきの人ほどではないがクセの強い戦い方をする人と戦い10組の人とも終わりもう一回1年生全員を一階に呼び出し試験の評価を校長が言った。
「みなさん授業で習ったことをしっかり聞いて実践に行かせていたと思います。これからも学業に励むようにしてください。」
そう言って期末試験が終わった。
時は立ち1学期終業式になった。俺たち生徒は講堂に集合した。
「ただいまより、セツシート大学1学期終業式を始めます。はじめにセイラス校長先生からのお言葉です。」
そう言って司会は席に戻り校長が前に立った。
「みなさんこんにちは。今学期は特にみなさん学業も成績が良く今後もこの成績を維持することに励んでください。今から夏休みが始まります。今年は49日間となっています。その間みなさん誰も怪我せずに炎天下に負けないようにしてください。」
相変わらず校長の話は短いから好きだ。
「続いては生徒会長からの挨拶ですが我が校とアルディーノ大学との伝統交流会に行っているため、生活指導のウェストビレッジ先生からの夏休みの過ごし方についてです。」
「みなさん。49日間の夏休みとだけあって実家に帰る人も多いのでしょうが、セツシート大学の生徒という自覚をもって過ごすことを心がけてください。また、今年は例年以上の猛暑日になることが予測されています。こまめに水分補給ということを心掛けてください。」
「続いては校歌斉唱。全生徒教員は立って歌うようにしてください。」
そう言ってこの場にいる人全員が椅子を立って校歌を歌う。歌い終わったら全員席に着いてそのまま終業式が終わったが、ここから先が夏休み最大の難所だ。
教室に帰って椅子に座りその時を待つ。すると扉が開きヴィオラ先生が台車を持って教室に入ってくる。
「今から夏休みがの宿題を配るから全員受け取るように。」
先生から配られたのは、国語のワークの薄い30ページほどの教科書、計算式や文章題がたくさん書いてあるプリント、あとは宿題が書いたプリンと夏休みの過ごし方について書かれたプリント、1学期の学費の書類を配られ1学期が終わった。
「なぁグレイとフィオナは夏休み何するのか?」
アルバートが聞いてきた。
「あ!それ私も気になる!」
「一応私も気になります…」
ローズとジェイミーも聞いてきた。
「私と兄さんは、実家に帰ったり旅行に行ったりしますが基本的には家にいます。わからないことや魔法についてなら私たちの家に来てください。」
おいおい。勝手に旅行に行く予定を入れるな。
「じゃあわからないとこがあったら聞きに行くよ。」
アルバートがまるで頼りにしてると言わんばかりに目を輝かせて言ってきた。
「ってアルバートフィオナたちの家知らないでしょ。」
そういえばまだ教えてなかったな。
「っ!じゃ、じゃあそういうローズは知ってるのかよ。」
「それは…今からわかるわよ。フィオナどこか教えてくれる?」
「はい。別にいいですよね。」
俺の方を見て言ってきた。別に俺に聞かなくても…
「別にいいよ。」
そう言って俺たちの家へと案内した。10分ほど歩くと家に着いた。
「はぁ…すげぇ…めちゃくちゃ大きい…」
みんなそんな反応をしていた。まあそうなるか。だって他の人たちは学校の用意した寮だもんな。
「ここが僕たちの家です。」
一応言っておいて門の前で別れ際にお互い楽しい夏休みにしようと言った。
家の扉を開けるとマロンとノアが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。グレイ様。フィオナ様。」
そう言われたのでただいまと言ってすぐさまフィオナに聞く。
「なあフィオナ。さっき旅行に行くとか言ってたけど、どこか取っているのか?」
「兄さんが取るに決まっているでしょう。もちろんここにいる20人全員分をね。まさか連れて行かないとは言わないですよね。日頃お世話になっているのですからね。」
まさかここにいる人全員連れて行くことになるとはな。でも、ここで反対したらフィオナが怒って水素爆発球を撃たれるからな。
「もちろん連れて行くさ。ちゃんと予定を組んでおくから。」
そう言って自分の部屋に入る。荷物を持っていたマロンが俺に抱きついてくる。この頃いつもこうだ。
「なんで荷物を置きにきたのに俺に抱きついて来るんだ?」
「なんでかグレイ様に抱きついていると安心できるんです。」
「じゃあもう安心できたな。もう離れてくれるか?」
流石にこんなに長く真っ正面から14歳の少女に抱きつかれていると我慢ができなくなる。
しかもこの身長差が1番の問題だ。俺の胸と同じ位置に胸を押し付けられると限界がくる。
「はい。1日1回抱きつかないと安心できなかったので安心できました。」
そう言って俺とマロンは食事ホールに移動し夜ご飯を食べて図書館に行き資料を探す。それはこの世界の観光スポットについて書かれた本だ。旅行に行くなる入念に計画を立てないとな。
図書館の扉が開きフィオナが兄さんお風呂どうぞと言われたので、お風呂に入りベッドに入る。
明日から夏休みが始まる。そんな期待と宿題に追われる恐怖を胸に俺は眠りについた。