エピローグ
「んんっ……」
俺が目を開けた時そこは白く何もない空間であった。
「グレイさん」
鈴の音が聞こえたかと思えばそこにミカエルが現れた。
俺は急いでミカエルから距離を取った。
「そんなに距離を取らなくても」
「ふざけるな。俺はお前は許さない」
「私を助けていただきありがとうございます」
ミカエルは急に俺の方へ近づいて来てそう言った。
「何なんだ?」
「私を魔力の闇から救っていただいてですよ」
そうやって言っているミカエルの声は全く悪意が感じられない。
先ほどまで戦っていたかのような邪気に満ちたミカエルではなく一番最初にあった時と同じような感じだ。
「魔力の闇?」
「ええ。まだ信じてもらえないでしょうけどあれは私の意思ではないのです」
「じゃあ何なんだ?」
あの言葉や行動がミカエルの意思ではないとしたら何なのだ。
誰かが操ったとも考えにくい。
「魔力の闇、つまり魔力によって体を乗っ取られるのです。あなたもあったでしょう?」
ミカエルにそう言われてこれまでを振り返った。
魔力に体を乗っ取られたことはなかったが目白さんやマヨルダのように体が勝手に動いたことはあった。
「一応無いわけではないと思う」
「ならもう魔力についてはお分かりですね。魔力というのは多ければ多いほど便利な代物ですが多すぎたら暴発が起きるのです」
俺は魔力が多いという自覚はある。
魔力が今よりも少なくなったら、なんて考えたことなかった。
確かに魔力とは多ければ多いほど便利ではあるだろう。
「そして暴発というのは魔力が多いほど激しく甚大な被害を及ぼす」
「それでミカエルはあんな事になったのか」
「薬を打ったのも大きな要因ですが最大の原因はそれで間違いありません」
そうか、薬もあったのか。
ウィリアム達が作った薬は魔封石から切り抜いて作られていたが天界ではどうなのだろうか。
「薬はどうなってるんだ?」
「あなた達が海底都市で見た時のほとんど同じですよ」
「なるほどな。ところで魔力が暴発って言ってたけど放出すればよかったんじゃ無いのか?」
全ては魔力が抑えきれないから暴走したのであって魔力を放出すれば良かったのだ。
でもそんな手があればすぐに気づくだろうな。
おそらくミカエルもそれが出来なかったからあんなことになったのだろう。
「昔は天使にやって貰っていたんですよ」
「天使?天使ってお前が追放した天使か?」
「はい」
「何でそんな事を……バカなのか?」
いや、バカだろう。
そういう事になるのが分かっていたのに関わらず天使を追放したのだ。
「それは認めましょう。でも私は今も間違った選択をしたとは思ってはいません」
「あれだけ街を破壊しておいてか?」
「天使たちは私たち女神と敵対したのです。そんな方達とは私はもう一緒にはいられません」
「分かった。俺はミカエル、お前を許すことは決してできない。でも今回のことについては水に流そう。どうせ俺は死んでいるんだしな」
過去のことを考えても仕方がないしミカエルの意見も聞いたから俺はもうそれで十分だった。
「グレイさん、あなた何を言っているのですか?」
ミカエルが首を傾げながら聞いて来た。
俺が何のことかわからずにポカンとしていたらミカエルが言った。
「最初に私は言いましたよ。神を倒すことが出来たのなら何でも言うことを聞きましょうと」
そういえばそんな事もあったなと俺は十六年ほど前の記憶を思い出した。
「じゃあ、その言うことを増やしてくれ」
「それは出来ませんね」
「やっぱりですか……」
あっさりと俺はミカエルに断られた。
とりあえず願い事は一つだけらしいな。
そうなると言うことはもう俺の中で決まっている。
「俺と目白さん、今回の戦いでの被害者全員の体を癒して生き返らせてくれ」
「随分と期待はずれな欲求ですね。あなたならそんな事言わないと思っていましたが」
ミカエルの中での俺の像はどうなっているのだろうか。
きっとそんな言葉が出てくるほどに自分中心で考える人間像が出来ていたのだろう。
確かに前世の俺は自分が一番不幸だと自分中心に決めていたな。
「まあいいでしょう。それではあなたの願いを叶えて差し上げましょう」
ミカエルはそう言うと俺の手を取った。
次の瞬間、目の前がふっと明るくなると俺の横には目白さんが現れセツシートの上空にいた。
「……グレイ?」
「目白さん」
俺が目白さんに向けてそう言うと目白さんは顔を赤くした。
「その、ごめんなさい。勝手にあんなキ、キスなんてしてしまって」
「全然いいですよ。僕も目白さんのことは好きでしたし」
そう言うと目白さんは顔を真っ赤にして手で顔を覆った。
「こんな時に言うのは申し訳ないけど今しか言えないの」
目白さんはそう言って俺の方を向いた。
「私とその…お付き合いをしませんか……?」
正直な話をするととても嬉しかった。
目白さんはまずまずそう言うことには興味がないと思っていたが全く違うようだった。
こう言われたのならば俺が言うことは決まっている。
「こんな僕で良かったらお願いします」
俺はそう答えた。
「じゃあ、もうすぐ付きますよ」
「ミカエル!?」
「大丈夫です。あとで全部話しますよ」
ミカエルの顔を見て驚いていた目白さんに対して俺はそう言った。
目白さんは俺がそう言うと少しずつ落ち着いていった。
「あれって……」
地面に着いた頃、奥の方から人の声が聞こえた。
するとどんどんと人が集まっていき辺りは人で溢れかえった。
「この度は申し訳ありませんでした。許されないのは分かっていますが聞くだけでもしてください。申し訳ありませんでした」
人が集まった時、ミカエルは上空に飛んでそう民衆に向けて謝った。
「まあ、いいぜ。女神様」
「全部解決したしな」
そう言った声が辺りで飛び始めた。
辺りが騒がしくなり始めた頃ミカエルは俺たちの方へ寄って来た。
「あとでまたそちらに行きますね」
ミカエルはそう言うと上空へと飛んでいってしまった。
「グレイ、早く行かないと学校遅れるわよ」
「そうですよ兄さん!」
俺は前世では生きることすらも辛くてたまらなかった。
けど今は違う。
扉を開けて家の外に出た。
「グレイ。もう遅れるぜ」
信頼できる仲間や友達がたくさん増えた。
生きるというのは難しいけどだからこそ楽しいんだと思う。
俺は今この世界に来て本当に良かったと俺は感じている。
そこで伝えたい。
ありがとう
この作品はこれで完結です!
ここまでやって来れたのもきっと皆さんの応援があってこそだと思っています。
改めて皆さん今まで応援ありがとうございました!
これからも不定期ですが他の物語も投稿するかもしれませんのでよろしくお願いします。
ではまた会いましょう!