第137話 堕天使五帝
「あんな奴に勝てる勝算なんてあるのか?」
「そうだね。あるけど大きな犠牲を払うことになる」
「それは?」
ミカエルの触手や魔法を避けたりしながら海斗と会話をし続けた。
「君は魔力を莫大に増やす方法は知っているかい?」
「海底都市の時と同じように魔封石を体に入れるとかか?」
ウィリアムやマヨルダの体を変形させた魔封石の注射だ。
今のところ、それくらいしか俺は思いついていない。
「それもそうだけど、自分の寿命を魔力に変えるんだよ」
「寿命?」
どこかで聞いたことがあるような内容だな。
「それでどうなるんだ?」
「慌てるんじゃ無い。順を追って説明する。そもそもグレイ君は天使と人間の差って分かるか?」
天使と人間の差なんていくらでもあるだろう。
例えば、神に近い存在だということや寿命が長いこと。
「魔力の総量でしか差はないんだ」
海斗の口からは思わず疑ってしまうような内容の言葉が聞こえて来た。
「寿命や地位も魔力なんだよ。だから、理論上は君も天使になる事はできる」
「でも、そんなの無理じゃ……」
「確かに現実ではできない。ただ、グレイの中に入っている天使たちの記憶を除いては」
俺の記憶の中に入っている天使?
そんなものはいただろうか。
「過去を可視化できる君の能力を応用すれば過去の記憶を呼び覚ますこともできる。自分の残りの寿命を魔力にして記憶を呼び覚ますことが出来れば天使にだって人間はなれるんだよ」
人間も天使になる事はできる。
そうすれば恐らくミカエルは倒すことが出来るだろう。
でも、怖い。
自分の寿命を代償に天使になるなんて怖すぎる。
「この方法は絶対じゃない。もしかしたら他の方法も……」
「俺がもし天使になれたら……なれたらこの世界は救えますか?」
「絶対とは言えないが恐らく出来るだろう」
そう海斗が言うとミカエルの攻撃が止んだ。
「いつの間にお前は来ていたんだ」
ミカエルは俺ではなく海斗の方を見てそう言った。
一度ミカエルの体は一瞬だけ光り輝いた。
するとミカエルは体から生える触手を何本も一気に俺の方へ飛ばして来た。
その触手の量と速さを見た瞬間、俺は心の中でつぶやいた。
——無理だ。
そう思った。
だが、その触手は俺には全く当たらなかった。
俺の体には当たっているのに貫通しているのに当たらない。
「ほう、それを避けるか」
そのミカエルの言葉で俺はようやくなぜ自分に当たってないのかを知った。
「随分とお喋りになったな。以前は全く喋ってくれなかったのに」
ミカエルは記憶である海斗と戦っていたのだ。
「記憶にも干渉出来るのか……」
「グレイ君。さっきのこと戦法はもう教えてあるから記憶を探すんだ。僕が戦っているうちに……」
そう言われて俺は記憶の中を探し出した。
海斗が気を引いてくれているうちに俺はようやく海斗の言っていた魔法を見つけた。
「あの時よりは戦えるようにはなっているじゃないか」
「ふふ……本命は僕じゃないしね、そろそろお暇させて貰おうか」
そう言って海斗は霧のように消えた。
「さて、お前はどのようにして私を楽しませてくれるのだ?」
ミカエルは海斗がいなくなったことで俺の方に気が移った。
「俺はここでお前を倒させてもらう」
「ほう。出来るとでも?」
「あぁ。出来るとも」
俺はそう言って記憶の奥底から引っ張り出して来た魔法を繰り出した。
寿命が減るというのは経験したことが無かったが案外簡単にいくものだった。
ミカエルはじっと、俺の方を見て様子を窺っていた。
寿命を十分ほどまで残してあとは全てを魔力に変換した。
魔力が増えたというのは非常に変な気持ちにはなったが同時にものすごい自信がみなぎって来た。
最後に記憶の中の天使、つまりマヨルダたちの記憶を俺の中に呼び覚ました。
「お前っ……まさか!」
「言っただろう俺はお前を倒すと」
背中からは天使を象徴させる大きな白い翼が生えて頭の中には声が聞こえて来た。
「私を外に出してくれて感謝しよう」
まずそう言ったマヨルダの声が聞こえた。
「まさか海底都市に閉じ込めたのがミカエルだったとはな」
次にメランダ。
「記憶がようやく戻った」
その後ゲルメールと順番に喋っていた。
そして、最後に五人は一緒に言った。
「「「「「あの忌々しい女神に復讐をしようじゃないか」」」」」