第135話 二本目
「はぁ……はぁ……」
女神は俺の前に前に倒れていた。
ようやく全てが終わったのだ。
「ガアッ……」
急に胸が苦しくなって呼吸をするのが難しくなった。
おそらく理由は相乗魔剣のせいだろう。
本来は魔法は一回に一つずつしか発動できないという規則がある。
それを無視して二つの魔法を一気に使ったせいで体が悲鳴を上げているのだろう。
俺は魔力を急いで体全体に取り入れた。
そうするとほんの少しだけ胸の苦しさが収まった。
「マズいな」
俺は立ち上がりフラフラになりながら目白さんの元へと歩いて行った。
「俺はまた……救えなかった………」
俺は目白さんを見てそう思った。
大きな後悔と自分への怒りが込み上げて来ていた。
なぜもっと警戒しなかったのか。
防ぐ方法はあったはずなのになぜ助けれなかったのか。
そんなことを考えていた。
「グ、グレイ……流石の強さだな」
「っ!?」
俺は後ろからミカエルの声が聞こえて振り返った。
ミカエルも俺と同じく完全にボロボロで立つのが精一杯なようだった。
「私はおもちゃには負けない……」
「まだそんな事を言っていたのか?お前は負けたんだ」
「ふふ。そうか、負けか。負けというのはこういう気持ちなんだな……」
ミカエルは何処からか注射器を取り出していた。
「勝ちに対して欲望が湧く。確かに負けも素晴らしいものだ」
「何をしようとしてる!」
「たとえ負けたとしても最後に勝つのは私だッ………ウアァァァァ!」
肩のあたりに二本目の注射器を撃ち込んだミカエルはそう叫んだ。
あの薬は本来一本で入れるだけで意識が飛びそうになる劇薬だったはずだ。
そんな物をもう一本も入れるなんてこと信じられない。
「ううぅ……ァァァァ………………」
ミカエルは頭を押さえて地面に倒れ込んでいた。
劇薬を自らに投与したウィリアムやマヨルダのように暴走してしまうと俺だけでは対処しきれないだろう。
「ハァ、ハハハ。グレイ、全てはお前のおかげだ」
「んなっ……」
ミカエルはもはや女神とは程遠い姿をしていた。
顔面には黒いあざが入り背中からは黒い翼まで生えていた。
体はもはや原型を留めずに灰色の殻が体を覆っていた。
「素晴らしい力だ」
そう言ってミカエルは腕を少しだけ振り上げた。
一瞬のうちに俺に衝撃波が加わった。
「ガッ……」
俺は先ほどの場所から何十メートルも先に飛ばされた。
「目白さん。不名誉へかもしれませんけど、」
魔力空間に目白さんを俺は入れた。
本来ならこんな事はしたくはなかったのだがミカエルなら目白さんを跡形なく消してしまうかもしれない。
「まだそんな余裕があったのか」
指でミカエルは俺たちの方を指した。
するとすぐに地面から炎が生まれて焼き焦がした。
「もういい、これで終わりだ」
ミカエルはそう言って魔力を集め始めていた。
間違いない。
天使の涙を撃とうとしているのだろう。
俺は急いで目白さんから教えてもらった天使の涙の術式を構築した。
「天使の涙」
冷酷で残酷な声でミカエルはそう言った。
それと同時に俺も天使の涙を撃ち込んだ。
「うおおお!!」
俺の撃った魔法はミカエルの天使の涙を押し切った。
「どこまでも、私の邪魔を……仕方がない。お前には私のとっておきを渡そう」
「取っておき?」
俺がそう思っていると今までの比じゃない量の魔力を作り出していた。
「神撃・ジェネシスバースト」
「マズい……」
急いで俺は魔法障壁を作り出して魔法を防御する体制に入った。
神撃がミカエルによって撃たれると空間が歪んだ気がした。
そして次の瞬間、地面が抜けた。
この空間そのものの時間が歪み現実に干渉してしまったのだろう。
俺は空から撃たれる神撃を避けながら地面に落下した。