第133話 貫通
目白さんから聞いた指示は具体的にはこうだ。
まず俺がミカエルの気を惹くために近づく。
そして俺の方から天使の涙をミカエルの方へと撃ち込む。
ただ、狙いはミカエルではなくその先にいる目白さんを狙う。
目白さんがカウンターを使って天使の涙の威力を傘増しさせてミカエルに撃ち込む。
そういうものだった。
「では行きましょうか」
「うん。じゃあ、よろしく」
依然としてミカエルの近くに寄ろうとすると触手が邪魔をしてくる。
魔力空間から剣を取り出してし俺の方へ飛んでくる触手を斬っていくが全く数が減らない。
それどころか進めば進むほど触手の数が増えて進めなくなっていっていた。
「くそッ!もっと前に……」
触手の間を縫うようにして俺はミカエルの近くへ行った。
「んなっ!」
近くに行くと触手は届かないもののミカエルが直接魔法を撃って来た。
魔法は獄火球や獄水球とは比べ物にならないくらい強く多いものだった。
俺は剣で防ごうとして魔法を受け止めたが無理だと判断して横へ避けた。
「さて、どうする」
目白さんは天使の涙の術式を構成中でまだ動くことは出来ない。
「なぜそこまでして戦う?無理だと悟っているのならばもうやめれば良いだろう」
「俺たちには勝てるという可能性が残っているからだ」
「そうか」
ミカエルは魔力を構成して俺たちの方へと撃ち込んだ。
「ぬぐおッ!!」
着弾と同時に爆風が飛んできた。
目白さんの方へは行かせまいと俺は魔力障壁を作り出した。
「くそッ、もう……」
パキンと音を立てて魔力障壁にヒビが入った。
「グレイ。もう大丈夫」
その言葉を聞くと俺と目白さんは一斉に違う方向へと走り出した。
ミカエルはそれと同時に光弾を作り雨のように降り注がせた。
何とか剣で防ぎながら俺は触手の間を抜けていった。
ミカエルに限界まで近づいたところで俺は目白さんに向けて言った。
「術式を!」
そう言うと俺の体の中に天使の涙の術式が送り込まれて来た。
と言っても圧縮したものを送ってくれたのだ。
天使の涙は非常に強力だがそれ故に術式も複雑で魔力も大量に消費する。
だから、古代の先人は術式を目白さんに。
魔力の制御を俺に教えた。
ただその使い方は術式を組み立ててしまえば一人でも使えると言うことだった。
「こういう使い方を望んでたんだろ」
俺はミカエルの少し後ろを狙って天使の涙を発射した。
「どこを狙っている?」
予定通りミカエルに天使の涙は当たらなかったが狙いは後ろだ。
天使の涙に惹かれて触手や魔法は無くなった。
それを好機に目白さんが高く飛びミカエルの後ろについた。
目白さんは空中で剣を三十本ほど追加して天使の涙を正面から喰らった。
そして、その天使の涙をカウンターしてミカエルの方へベクトルを変えた。
剣で天使の涙を防ぐってどれだけ強いのかと思いながら天使の涙は数倍になってミカエルに当たった。
「倒したか?」
その場にミカエルはいなかったので辺りを探した。
そして、ミカエルは目白さんの後ろにいた。
「目白さん!!」
俺は目白さんの方目掛けて全力で走っていった。
「今のはもう一発喰らったら死んでいたかもな」
そう言葉を聞いた目白さんはバッと後ろを振り返った。
魔法で作った剣を前に出すがミカエルパキンと音を出して割った。
「ガッ………」
そして、目白さんの腹からは黒い触手が貫通していた。
ミカエルはそれを俺の方へ投げて来た。
腹から抜けた触手は赤い鮮血を飛ばしながら飛んできていた。
「そんな……」
俺は目白さんの前に立ち尽くした。