第126話 目を覚まして
「フィオナなのか……?」
「全く、実の妹に対してこの仕打ちか」
ミカエルはそう言った。
「妹を奪われ半年以上が経って少しは強くなったかと思えば。口ほどにもならない」
ミカエルはフィオナから離れて後ろを向いて歩いていた。
その隙を逃さずに俺と目白さんは急いでミカエルの方へ走り寄った。
左右からミカエルを挟むようにして取り囲んだ。
「どこに行くつもりだ」
目白さんは剣で、俺は魔法でいつでも撃てる位置に立った。
すると俺たちの後ろから走る音が聞こえて来た。
フィオナだ。
目白さんは剣で攻撃を一度防いだがフィオナ地面でしゃがみながら脚を回した。
目白さんはその脚に絡め取られ地面に転がった。
「グッ……」
そのままフィオナは一歩も止まることもなく俺の方へ来た。
俺も魔法でフィオナを止めようとするが手が止まった。
「………ガアッ!」
俺は地面に転ばされてフィオナに上から乗られた。
右手を掴まれ親指を外側に回され身動きが取られなくなった。
そんな俺の前にミカエルはしゃがんで俺に言った。
「今まで一緒に暮らしていた家族に踏まれる気持ちはどうだ?」
「フィオナ!思い出せ!俺だ。覚えてないのか!」
「言っても無駄だ。思い出すことは決して無い」
ミカエルはそう言った。
「フィオナ!一緒に過ごしていたじゃ無いか!」
「兄、さん……」
それでも呼びかけているとフィオナの俺を拘束する手が緩んだ。
その隙を逃さずに俺はフィオナを地面に投げた。
「フィオナ!俺のことがわかるか!?」
フィオナの方を見て俺はそう呼びかけ続けた。
「やれやれ。半年以上も矯正したのに足りなかったというのか」
「アアッ!……アァァァァ!」
ミカエルがフィオナに向かって何かをしだした。
すると頭を抱えてフィオナは地面這いずっている。
「ミカエル!お前、お前フィオナに何を!」
「何もしていないさ。ほら見てみろ」
そう言うとフィオナの服をミカエルは斬り裂いた。
「これでいいだろう」
服を斬られたフィオナの体は鎖で覆われていた。
「あれは海底都市でマヨルダたちがつけてたのと同じ……」
「ほう、マヨルダを知っているか」
「知ったような口を。どういう関係だ?海底都市は古代の先人が神の攻撃を抑えるために作った場所だ」
「言ったであろう。お前たちは全員所詮は私の使い捨てのおもちゃなのだよ。もちろん例外なくマヨルダもな」
そう話しているとフィオナが起き上がりミカエルの方へ瞬間移動した。
ミカエルは服を斬り裂かれたフィオナに手を翳した。
フィオナは白く光りやがて一瞬のうちに服を着て現れた。
「ようやく完全体となったか。この時をどれだけ待ち侘びたか。グレイ。お前には感謝するぞ」
「お前は何を言って……」
そこまで言いかけた途端フィオナは俺の前に瞬間移動をして来た。
俺はフィオナに顎を思い切り蹴られ階段を転げ落ちた。
今のフィオナはおそらく俺よりもこの世界の誰よりも強い。
あの鎖のせいなのもあるが元々の身体能力や魔力の高さが最も影響しているだろう。
だが、以前とは比べ物にならないくらいに強くなっている。
一番大きな点としては瞬間移動の時に魔力が発生しないことだ。
おそらく他のことをしても同じだろう。
俺も昔試したことがあった魔力の隠蔽をフィオナはここで軽々とやってのけた。
「では、ここは任せるとしよう。私には大きな仕事があるのでな」
「待て!ミカエル!」
そう言ってミカエルの跡を追おうとするも目の前にフィオナが立ちはだかった。
「フィオナを助ける方法はないのか?」
「僕たちなら一応できるが、対象者が暴れたら何も出来ない」
海斗はそう答えた。
「目白さん。俺たちでどうにかしてフィオナを止めるぞ!」
そう言って俺たちは黒いマントをなびかせて立っているフィオナを見た。
「フィオナ。俺がいや、俺たちが助けてやるからな」