第12話 セツシートの歩き方
魔法陣で飛んだその先。
そこは、セツシート大学の講堂の中だった。
それも壇上だ。俺たちの前には、50歳くらいの白髪の男が立っていた。
どこかで見たことある顔だな。まあいいか。
そして、その男は俺たちの前で深く頭を下げて
「実技試験でセイクバロンテンに勝った者は、この100年の試験の歴史で1人もおらんかった。でも、それを塗り替えたのじゃ。ぜひその紙に書いてある通り特待生として迎えるのでセツシート大学に入学してもらいたい。いや、入学してください。」
そう言って改まって俺たちに向かって礼儀正しく言ってきた。
学校側からそう言ってくれるのならばありがたい。
「ええ。もちろんです。僕たちはこの学校に入るために受験をしに来たのですから。」
俺は笑いかけながら頭を下げて来た人に手を差し出し握手をした。こういうに人との関係は、最初が肝心だからな。俺と握手したあと男は、フィオナとも握手をして自分の自己紹介をしだした。
「セツシート大学にご入学いただきありがとうございます。私、セツシート大学の校長をしております、セイラス・パドリウスと申します。今後ともによろしくお願いいたします。」
え?今校長って言ったか?まさか校長直々に入学をお願いしに来るとはな。思いもよらないことに驚いていたら、
「こちらこそ宜しくお願い致します。」
とフィオナが礼儀正しく言った。
こんな時にでも冷静に対処できるフィオナさんは凄いな。俺もあんな冷静で平常心を保ちたいものだ。
「グレイ様とフィオナ様は、通常よりも早く試験が終わりましたので入学の書類を先にお書きください。」
そう言って校長は、上着のスーツの中からペンを2つ取り出し俺たちに渡して来た。
「その持っておられる紙に自分の名前を書いて私に提出してください。それで入学手続きは、完了です。そのあとは自由にしていただいて結構です。明日は、朝食を食堂でも構いませんしそれ以外で食べてもらっても構いませんが、朝の8時までにはこの講堂にお集まりください。」
紙に名前を書くだけで終わりか。
特待生だから入学金とかその他諸々の書類も無しでいいなんて素晴らしいな。
俺とフィオナは、壇上にあった机を借りて自分の名前を書いた。
それを校長に提出して、あとは自由にしていいと言われたので俺とフィオナは、学校の近くを見て回った。
この街はセツシートっていうらしい。そこからセツシート大学になったんだとか。
この街は世界で2番目に栄えているだけある。それなりにでかい。
この街には、だいたいなんでも揃っていると校長が言っていた。
校長も来ないのかと聞いたら受験生の安否を確認しないといけないからと、講堂を出て行った。
その代わりに校長がこれが一番わかりやすいとこの街の地図を渡してくれた。
開いて中を見てみたら恐らく校長直筆だろう、一つ一つの店にレビューや情報が書き込まれている。これは使いやすいな。そう思って、地図を見ながら街を歩く。
今の時間は、2時。手続きを書いたり昼ご飯をフィオナと貸切で食べてくつろいでいたらこの時間だ。
この時間は、外に出ている屋台でも道もかなり混んでいる。
さすがは、2番目に栄えているだけあるな。色々な人が移り住んでいる。
「夜は、この校長先生も美味しいって言ってた店で食べるとして、今からどうしようかな。」
「兄さん!このお店に行きましょう!」
そう言ってフィオナが指差した先は、服屋であった。
おしゃれな服も戦闘服も冒険者用の服もなんでも揃っている服と言ったらここ!とメモされていた。
入学する前にまた、必要なものを書いたリストを渡す、と言っていたしここも覚えておいて損はないかな?
「いいけど、そんなに高い服を買うなよ。」
やったー、といってフィオナはその服屋に行っていろんな服を選んで、俺にどうかと聞いて来た。
「兄さん。この服とかどうでしょうか?」
試着室のカーテンを開けて俺に聞いてくる。
その服装というのが、紫色のワンピースだった。すごく可愛らしく見えてくる。だから、俺はそのままの感想を言った。
「すごく可愛らしくていいと思うよ。」
と言ったら、フィオナが気に入ったのかそのままの勢いで店員にこれ買います!と言った。
「代金の方は、どちらがお払いになりますか?」
と店員が聞いて来た。すると、フィオナはなんの躊躇いもなく、
「兄さんが払います。」
と言った。
ゲッ!俺かよ、と思ったがここは優しいお兄ちゃんらしく俺が払うと決意した。
その選択がどれだけバカな選択だったかこのあとすぐに思い知った。
この世界におけるお金の単位というのは、1ダラーズが日本における1円ということらしい。
この店の店員は、
「はい。こちらの紫色のワンピースですね。1点で25000ダラーズになります。」
と言った。俺が幼少期の頃から一か月ごとのお小遣いを楽しみにして、できる限り貯めてきた。今の俺の全財産が27500ダラーズ。それから25000ダラーズ引くと、2500ダラーズ。
あぁ、俺の8年間貯めてきたお金がワンピース1着で2500円にまで減った。
くそ、フィオナめ。自分で値札のタグを見て最初から俺に払わせようとしていたな。
いや、ここで怒ってしまうと俺の思い描く理想の兄妹絵図が壊れてしまう。そう思い財布から25000ダラーズを払った。
「はい。きっちり25000ダラーズお預かりしました。」
そう言ってフィオナの紫色のワンピースの取り引きが終了した。店を出て時計を見てみる。もう5時ごろだ。この街は大きいから歩くだけで、1日が終わりそうだ。
「そろそろ夜ご飯を食べる頃だから、山鳩亭に食べに行こうか。」
山鳩亭が、校長一押しの食事処らしい。
なんでも前菜からデザートまでお手軽な値段で食べられるところが一番いいらしい。
その人気さゆえに店はいつも混雑しているらしいが、今回はセツシート大学のよくわからない歴史で実技試験1位のものが山鳩亭で夜ご飯を食べるという伝統があるらしい。
校長が前もって予約しているらしい。
料金も前払いしているから予約時間に遅れないように行ってくれ、と念を押して言われてしまったから行かないとな。
山鳩亭は、外見だけでなく中も洋風の少し大きめの店だ。
店内に入り、グレイ・ジュリエッと言ったらおめでとうございます、と言われて席に案内された。
「兄さん。先ほどはこのワンピースを買っていただきありがとうございました。」
フィオナが嬉しそうに俺に言った。そのために俺の全財産がほぼなくなったけどなと思いながら、
「いやいや、フィオナのお願いだし念願のセツシート大学特待生合格だからな、お祝いしないとな。」
俺は、そう言って笑いかけた。内心に秘めた悲しさを閉じ込めて。
まず、前菜にサラダが出てきた。新鮮な野菜に、ドレッシングがかかっている。
その後に、ほうれん草などの野菜をすりつぶして作ったスープが出てきた。
それ美味しいのかな?と思って食べたら驚くほど美味しかった。
日本を思い出す懐かしい味だな。
その次に、お待ちかねの主食が出てきた。
俺は肉を、フィオナは魚を頼んだ。
俺には、牛の肉をワインなどで1日浸して作ったビーフシチューが出てきた。
フィオナには、白身魚を揚げて作った天丼なるものが出てきた。
俺は、このメニューで確信した。
この世界にも、この世界ではないどこかから転生してきた人がいることに。
でも、今はそんなことを考えずにこの目の前にいる美味しい料理を食べることに集中した。
最後に、フルーツ盛り合わせと、季節のデザートのイチゴのムースが出てきた。
フルーツは、美味しくて甘いものがたくさんあった。
イチゴのムースは、小さなカップの中に詰められており、その上にイチゴのジャムその横に小さなハーブが乗っていた。
まさしく、王様になって食べている感覚になった。
これが特待生になったことのメリットか。
やっぱりみんな言うようにセツシート大学の特待生は、すごく優遇されているんだな。
山鳩亭でお腹いっぱい食べた俺は、フィオナを連れて学校の宿舎に戻る。
「この山鳩亭美味しかったのでまた今度行きましょうね。」
男子の宿舎と女子の宿舎の別れ際にフィオナは、そう言って別れた。
明日は8時までに講堂に行く、と自分の頭の中に書き込んで、俺は自分の宿舎のベットに横たわり風呂で疲れを取り快適なベットで深い眠りについた。