第125話 歩み寄る黒い影
扉を開けた先には大きな空間が広がっていた。
一番奥には椅子があり誰かが座っていた。
「あれって、ミカエルじゃないの?なんか変だけど」
愛莉が指差しながらそう言った。
愛莉に言われてよく見てみると確かに何かが変だった。
「何で頭なんて抱えてるんだ?」
ミカエルは椅子に座りながらもがき苦しんでいるように見えた。
「だから言っただろう。ミカエルは己が魔力にミカエルは侵されていると」
「今なら近づいて大丈夫なのか?」
「多分」
そう言われたのでミカエルの方へと寄って行った。
ミカエルは頭を抑えて苦しんでいる。
歩いてミカエルに寄った瞬間、何かが俺の前を横切った。
「何だ?」
「どうしたの?」
「なにかが今横切った気がして」
そう言って後ろを振り返った時のことだった。
「いっっ!」
黒いローブを着た何者かが俺の体を蹴った。
思っているよりも力が強く俺は壁まで吹き飛ばされた。
「誰なの!」
剣を抜いた目白さんは黒いローブの人に斬りかかった。
目白さんが振り下ろした剣を黒いローブの人は後ろに回りながら足で弾き返した。
「水弾!」
「火弾!」
黒いローブの人が足をついた場所にマロンとノアが魔法を撃ち込んだ。
だが、それを見越しているのか黒いローブの人はさらに飛び後ろへ下がった。
「魔力の暴発の鎮静を確認。自動機能を停止する。」
椅子でもがいていたミカエルはそう言った。
「クソっ……」
「やっぱり間に合わなかったのね……」
海斗と愛莉はそう言った。
「どういう事だ?」
「見ていたら分かる」
ミカエルはずっと座っていた椅子から立ち上がって喋った。
「ようやく、この時がやって来た。私の招いた子猫と戯れる日が来るとはな。しかも四人も」
その声はまさしく俺がこの世界に来る前に聞いた声と同じものだった。
「あんた私たちのことをどう思ってるの?」
目白さんが聞いた言葉に対してミカエルが不気味に笑った。
「使い捨ての遊び道具だ」
ミカエルの口から放たれたのはそんな驚きの言葉だった。
「ミカエル。お前は本当に女神なのか?」
「そうさ。私は女神であり神なのだ」
「じゃあ、お前が言ったあの言葉は何だったんだよ……」
「言葉?」
「あの時にミカエルが俺に言ってくれた言葉。優しい眼差し。あれは何だったんだ!」
俺はミカエルに助けられた。
あの時の言葉のおかげでここまで来れたのに。
何故
その言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。
「グレイ。ミカエルの言葉は聞き入れたらダメよ。ミカエルはああ言っているけど元は優しい天使なの。今は魔力に侵されているだけ」
「愛莉の言うとおりだ。この世界に連れてこられたのもミカエルの遊び道具なんかじゃない」
「何とでも言うがいい」
「グレイ様やメジロ様は遊び道具なんかじゃありません!」
マロンの声が空間に響いた。
「あ?黙っておけばいいものを!」
ミカエルはそう言って思い切り腕を振り下ろした。
その瞬間、マロンの体から大量の鮮血があたりに飛び散った。
「マロン!」
「お前もだ。愚民」
ノアが歩み寄ろうとするがミカエルはそれすらも許さなかった。
「あぁっ!」
背中からマロンと同じように鮮血が舞った。
「せめてもの慈悲で急所は避けてやったことに感謝しろ」
そう言うがマロンもノアも瀕死状態でいつ死んでもおかしくなかった。
「お前らの相手がまだだったな」
ミカエルはそう言って光弾を大量に俺たちの方へ放って来た。
俺は横に避けるがそこには黒い人影がいた。
「グアァッッ!」
魔力空間から瞬時に剣を取り出しローブに突き刺した。
そう思ったが俺が甘かった。
黒いローブは僅かに体を曲げて剣をローブで挟んだ。
俺は全力で引き抜こうとするが黒いローブの思うがままに吹き飛ばされた。
そして、吹き飛ばされた先には都合のいいことに光弾が飛んできていた。
「グレイ!何とかして黒いローブを抑えるわよ!」
俺に飛んできた光弾を弾いた目白さんがすれ違いざまにそう言った。
俺も目白さんに続いて剣を持ち黒いローブの方へ走った。
目白さんが剣で黒いローブを惹きつけていた。
「相乗魔剣・斬!」
魔力で加速して黒いローブに剣を突き刺した。
肩のあたりを剣は貫通した。
そんな時黒いローブは剣を突き刺したのに関わらず目白さんを弾いた。
「アッ!」
「おぉっ!マジかよ……」
猛スピードで後ろに飛ばされる目白さんに俺はぶつかった。
「いててて……」
黒いローブは剣を肩に突き刺したままミカエルの近くに行った。
カラン、と剣が地面に落ちる音が響きその後にボタボタッと大量に血が出た。
そんな黒いローブをミカエルは頭を撫でて俺たちに言った。
「お前たちに人間の心は無いのか?」
「何を言ってる!」
「これが誰だか分からないのか?」
頭を撫でている黒いローブを前に出して再度ミカエルは言った。
「仕方がない。可哀想に」
ミカエルはそう言いながら頭から被っているローブを脱がした。
そこから現れたのは。
「フィ、オナ………?」
そこから現れたのは。
現れたのは十六年も一緒に暮らして神に連れ去られたフィオナだった。