第123話 記憶の戒め
「学校……?」
「おう、やっと来たか。おはよう山下!」
そう俺に挨拶をしてくる人がいた。
それは俺のことを虐めていた杉見だった。
「え……?どうなってるんだ………」
「山下何言ってるんだよ。去年もクラス一緒だったじゃないか」
「あぁ、そうだったな」
どう言うことなんだ?
少なくとも俺は学校にいてはならない存在のはずだ。
なぜなら、俺はもう死んでいるからだ。
しかも杉見に話しかけられるなんてことはなかった。
それなのにどうしてだろうか。
ずっと、ここにいたいと感じる。
「——定期テストどうだった?」
「うーん。まあまあかな」
「マジかよ。俺は全然ダメだったぜ」
杉見は話してみると意外といい人だった。
話していて楽しい人だったし、面白い人だ。
「ん……?あれって………」
杉見と話しながら帰っている途中、急に見覚えのある陰が見えた。
そこにはトラックが突っ込んだ。
トラックからは女性が出てきたがトラックが爆発してその女性は姿を消した。
「何だよ……」
「どうしたんだ?」
「いや、何でもない」
杉見に聞かれて俺はそう答えた。
「グレイ。起きるんだ」
肩を揺らされて俺は目を覚ました。
「ここは……?」
そこは黒い空間で何もなかった。
前に男の人と女の人が立っているだけだった。
「早く、現実に戻ってくるんだ」
「何を言ってるんです?僕は充実した日々を過ごしていますよ」
そう。
俺は今学校で杉見という友達と仲良く過ごしている。
「マズいわね。これはかなり進んでいるわよ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「こうするしかないわね」
前にいる人たちが喋り終わったのか俺の方を向いた。
「何をする気だ……やめろ!」
女性は手を俺の額にかざした。
その瞬間、頭の中に大量の何かが入り込んできた。
「アアアアァァアァァ!!!!」
頭が痛くてたまらなかった。
こんな痛みは初めてだったからだ。
気がつくと俺は頭の痛みからは解放され自室にいた。
「何だったんだ?」
そうベッドから降りた時、声が聞こえてきた。
——グレイ様、おはようございます。
辺りを見回すが誰もいない。
それなのにそんな声が聞こえてきた。
それからは何の変哲もなく学校へと到着した。
——時間ギリギリね。
「さっきから何なんだよ」
そんな時、ふと目の前に女性が現れた。
その女性は何も話さずにじっとこちらを見つめている。
「あなたは確か……トラックの中から出てきた……!?」
そこまで言うと女性は俺に近づいてきた。
喋ろうとしても喋れる状況ではない。
俺の唇に柔らかく温かい何かが触れているからである。
「グレイ。起きて」
その瞬間、俺は全てを思い出した。
「目白さん?そうだ。ここを出ないといけないのに」
「脱出方法は時空の歪みを正すことよ。時間がないから早くして!」
そう言うと目白さんは何もなかったかのように消えてしまった。
時空の歪みとは恐らく本来の歴史を歪ませている人物にあたるのだろう。
「山下!俺掃除だからちょっと待っててくれないか?」
「あぁ分かった」
どう考えても杉見のことだろう。
本来は俺を虐めているはずなのに友達になっているのだ。
これを歪みと言わず何といえるか。
ただ、正すというのはどういうことなのだろうか。
正す。
つまり、その人を本来の姿にすればいいのだろうがどうすればいいのか。
「なあ山下。こんなところに来て何をするんだ?」
俺は人気のいない路地裏に杉見を呼び込んだ。
この世界でも一応魔力は使える。
本来の姿に戻すのならば一度杉見の化けの皮を剥がすしかない。
「ごめん。杉見。水弾」
撃つと杉見の頭は一瞬で吹き飛んだ。