第121話 許容範囲
あの後、俺たちは目白さんに指導してもらい一応、剣も許容範囲になった。
「でも、それが出来たからって実践で使えるかは別よ」
目白さんに家へ帰る途中にそう釘を刺された。
確かに目白さんの言うことは間違ってなどいなかった。
神に単純な技術で勝とうとしてもそれは不可能に近いだろう。
だから、そこに加えて何かを入れないと戦っていけないのだ。
「明日が明後日には行きましょうか」
「そうね。神が暴走するのも時間の問題だし」
「はい……って、何でその事を!?」
「何でって私も聞いたからよ」
「いつです?」
「今朝よ」
なるほどなあ。
一応、あの話はメジロさんにもしておいたのか。
「じゃあ、家に帰ったら支度をしましょうか」
「そうね。何日もかかるかもしれないし」
支度といっても特にすることはない。
マロンとノアに塔の中で食べられるものをそれぞれの魔力空間に入れておくだけだ。
でも、油断は禁物だ。
いざという時のために色々用意しなければ。
「——あなた……グレイ、遠足じゃないのよ」
「へ?」
俺が自室で用意をしている時に目白さんから飛んできた言葉はそれだった。
「分かってますよ。もしもの時に備えてるんです」
「どうなっても私は知らないわよ」
最後にはそう目白さんに呆れられたのであった。
次の日、俺は朝日ではなく人の声で目を覚ました。
それも聞き馴染みのある声ではなく外から聞こえる人の声だった。
「なんだよ、うるいな……」
そう言って部屋の中のカーテンを開けてみた。
「っ……!?」
そこに広がっていたのはいつものような空ではなかった。
否、空はなかったという表現の方がこの場合は正しいだろう。
空は大きい何かで遮断されていた。
「これはどういう……」
真っ先にそのことが気になった。
「神がこのセツシートそのものを塔に変えてしまったんだ」
そう言う何処かで聞いたことのある声が聞こえてきた。
後ろを振り返るとそこには当然のように海斗たち古代の先人が立っていた。
「何でここにいるんだよ」
「おいおい、忘れたのかい。前会った時に言ったじゃないか。僕はもうすぐ現実に干渉できるようになるって」
「じゃあ、今ここにいるのか……?」
そう言って俺は海斗の方へと歩み寄った。
触ろうとするが俺の手は見事に体を突き抜けて行った。
「これはあくまで君の記憶だよ。干渉出来るとは言ったものの触れるってわけじゃないよ」
「それをさっさと言えよ!」
俺は完全にそこにいるものと考えて体重を預けたがそのまま地面に倒れた。
干渉出来るとか言ったから触れるかと思ったじゃないか。
「で、これは何なのか説明してくれないか?」
「これは僕たちも予想できなかったんだがここを塔として囲ってしまったんだ」
「じゃあ、どうすれば?」
「こうなった以上、どうすることもできない。神を倒すんだ。セツシートは外部との連絡を完全に遮断された。連絡手段がもうないんだ」
じゃあ本当にもう神を倒すしかないと言うことになるのか。
「早く行かないとまずいことになるわよ」
「準備出来ているかは分からないが僕も出来るだけのことはやるよ」
目白さんと海斗はそう言った。
「私もいるからね!神に対しての知識は私が一番持ってるわよ!」
「それとこの二人もいるわよ」
そう言う目白さんの後ろにはマロンとノアが顔を覗かせている。
「グレイ様」
「私たちはいつでも用意できています」
「分かった。じゃあ塔へ向かおうか。全てを取り戻すために」
そう言って俺は家を出て行った。