第120話 森の中の花火
今の俺に足りないこと。
それは魔力の操作だ。
課題を見つけた俺は右手に魔力を練った。
「もっと繊細に細く」
練った魔力を一本の糸のように細く伸ばしその先に水球を作り出した。
「よし。これで」
練った魔力の先を持って前にある木に向かって投げつけた。
木に当たる直前に練った魔力を俺の方へ引き寄せた。
すると、先にある水球は俺の方へ帰ってきた。
「大成功だ。後はこれをもっと規模の大きなものでも出来るようにならないとな」
目白さんと戦っていて分かった。
何故、俺の魔法は目白さんにあんなに簡単に斬られるのか。
理由は簡単だった。
真っ直ぐに目白さんに向かって飛んでいっているからだ。
なら、軌道を変えられたらいけると思った俺は今に至る。
しばらくして、獄水球や獄火球ぐらいの魔法ならば操ることが出来るようになった。
「……っと、もうすぐ三時間か。もう行かないと」
来た道を振り返り歩いて行った。
「やっと来た。一旦帰るわよ」
「どうやって帰るんです?」
いきなりそんな事を言われた。
帰ると言ってもここはセツシート大学の作ったドームのような場所の中だ。
帰りたいから帰る、なんて事出来るはずがない。
「こうよ」
すると目白さんはポケットから黄色い石を取り出した。
それを地面に起き剣で石を刺した。
石は真っ二つに割れてその間から火が飛び出した。
「花火ですか」
ドン、と大きな音が森の中に響き渡った。
その瞬間、辺りは真っ白に光り輝いた。
「おかえりなさい」
「校長ありがとうございます」
そこはもうセツシート大学だった。
「花火は見えたんですか?」
「はい。今回使った場所は特別大きいわけではない試作のものを使ったのでこんなに大きいんです」
そう言っている校長の後ろには両手を広げても届かないほどの大きさの模型があった。
「これ大きすぎてグレイさんたちの姿見えてたんですよ」
そうなのか。
俺たちはそんな小さいサイズまで縮んでいたのか。
「そういえば、魔力の歪みはどうなっているんです?」
「確かに微弱ながら反応はありましたが神は来ませんでしたよ」
俺はその一言を聞いて内心かなり安心した。
帰ってきたらセツシートは前みたいに崩壊していたなんてもう御免だったからだ。
「では、私たちはこれで」
「はい。また後で」
目白さんは俺を食堂へ連れて行った。
「グレイは剣を教えて欲しいって具体的には何が教えて欲しいの?」
「どうやったら目白さんみたいな攻撃力が出るのか教えて下さい」
先ほどの戦いで俺と目白さんは両方は相乗魔剣・斬を撃って押し負けた。
魔力の量や質なら俺の方が上だったが技術面で目白さんに劣っていた。
「そうね。努力したら出来ると言いたいところだけど強いて言うならじくね」
「軸?」
「そう、軸よ。物事には何でも軸があるのは分かるわよね?例えばこれも」
目白さんはグラスを手に取ってそう言った。
「軸を見つければこういうことできる」
グラスの底に人差し指を付けるとグラスは指の上に留まった。
「それと同じで攻撃の軸を掴むの。そうすれば攻撃もブレなくなる。はっきり言ってあなたの剣って目標がズレてるのよ」
目標がズレている?
どういう事なんだろうか。
「つまり、あなたの剣は軸がブレブレなの。まあ、ほとんどの人を指してるんだけど。あなたは剣はダメだけど技術だけなら私に勝っているわよ。じゃあ、午後はそれについて練習しましょうか」
その提案に俺は頷いた。
今の剣技でも、十分俺は強いと思っていた。
でも実際はそんなことがなかった。
目白さんの剣で勝てなかった神なのだ。
そんなのと俺が戦ってみても負けるだけだろう。
「行くわよ」
目白さんと俺は食事を済ませて再び講堂に戻った。