第113話 暴走
「目白さん!マロンとノアも!」
俺はすぐさま三人の方へ走り寄った。
「グレイ様。メジロ様は命に別狀はありません。今は意識がないですが時期に戻ります。」
マロンにそう言われて俺は安心した。
目白さんの両腕は先ほどの攻撃で負傷して血を流していた。
だが今はマロンとノアによる治療のおかげで出血も止まっている。
だから大丈夫ということなのだろう。
「ここで何かをしても仕方ないし何が起こるか分からないから上に行こうか。」
俺は床に寢込んでいた目白さんの身體を抱き上げた。
「戻ってきた!」
階段を上がり外へ出ると海底都市の関係者全員が集まっていた。
「理事長、目白さんを休ませてあげて下さい。」
「分かりました。ではこの中へ。」
そう言われて行きに乗ってきた馬車の中へ目白さんを置いた。
「グレイ、結局どうなったの?」
「あの黒い怪物は倒した。」
「本當か!やっぱりグレイたちはすごいな。」
「ねー。」
アルバートはそう言って盛り上がっていた。
すると、ジェイミーが俺に向かって聞いてきた。
「ところであれは何だったの?」
そう聞かれるとそれまで喋っていたアルバートやローズ、更には理事長まで俺の方に注目した。
「あれは戦っていて分かったんですが、海底都市のにいた人たちの記憶みたいです。」
「記憶?」
「はい。記憶が魔封石から溢れてできたのがあの黒い怪物みたいです。詳しい事は分かりませんが。」
「なるほど。それは興味深いですね。」
理事長もそう言って顎に手を當てて少し考えてから言った。
「ここからは私たちの仕事です。またも、グレイさんたちを危険に曬してしまって申し訳ない。」
「そんな危険だなんて。」
「あなた方の親御様にもう危険な事はさせないと誓ったのです。どう説明すればいいのか。」
おそらく海底都市の一件のことだろう。
それに加えてセツシートに神がやってきたことも大きく影響したのだろう。
「理事長の言う事は分かりました。理事長の言う通りここから先は大人に任せます。」
海底都市で調べたい事はもう無くなった。
もう海底都市に対して何か思い殘す事はない。
「ありがとうございます。他の方々もそれでよろしいでしょうか。」
「「「はい。」」」
「では、今日中には馬車に乗ってセツシートへ帰って下さい。付き添いにはこの二人に行かせますので安心して下さい。」
理事長が選んで安心だと言うのならばそう言う事なのだろう。
「準備が出來たら言ってください。」
「じゃあ、行こうか。」
俺がそう言うとアルバート達も洞窟へ荷物を取りに帰った。
「調査のご協力ありがとうございました。最後は殘念な結末になってしまいましたが。」
理事長はそう言い殘した馬車を出発させた。
その揺れ動く馬車の中で疲れがどっと出てきた俺は目を閉じて眠りについた。
「グレイ君。起きるんだ。」
どこかで聞いたことのある聲と共に俺は目を開けた。
「海鬥、に愛莉か。」
「そんなのどうでもいい。今まで黙ってはいたが神はまた暴走するかも知れない。」
「ちょっと待ってくれ。神が暴走?どう言うことだ?」
「じゃあ、私が説明するね。」
相変わらず距離感というものを分かっていない愛莉は喋り始めた。
「暴走っていうのはそのままの意味。神は大量の魔力を持っている。けど、それを放出しないと今みたいなことになるの。あのバカ天使は放出をしないのよ。ずーっと昔から。」
なるほど。
どこかで聞いたことのあるいわゆる魔力暴走というやつだな。
「その神が今までは落ち着いていたんだがまた暴走し始めようとしている。」
暴走するというのはセツシートで起きたあの災害のことでいいのだろうか。
それ以外に思い当たる節はないからそれでいいのだろう。
「セツシートに着いたら出来る限り急いで塔に入るんだ。」
「でも今は……」
「そんなことしてたら今度は世界が滅ぶやも知れないんだ。これは僕たちも知らない現象なんだ。神撃よりも危ないかも知れないんだ。」
塔は危ないと海斗から伝えられてきた。
目白さんも入るなと言っていたがそれに入れと言う事はかなりの緊急事態なのだろう。
「分かった。セツシートに着いたら少し話させてくれ。」
「えっ!?もう一回グレイと話せるの!」
顔を前に出して俺の前に愛莉が現れた。
「愛莉。あんまり近づき過ぎないで。とにかく、ありがとう。っと、そう言っていたらもうセツシートか。また会おうか。」
「……さん。グレイさん。あっ、やっと起きた!」
目を開けるとローズが俺の肩を揺さぶっていた。
「セツシートに着いたからとりあえず学校に行こう。」
「分かった。」
アルバートにそう言われて俺は馬車を降りた。
馬車を降りるやすぐに俺は後ろを振り返り塔を見た。
「近いうちに行ってやる。フィオナ、もう少しだから……もう少しで兄さんが迎えに行ってやるからな。」
「グレイ?早く行こう。」
「あぁ。今行く。」
俺は塔に向かってそう呟いてみんなの方へ走って行った。
第十章 海底都市再来編-完-