第100話 寝ぼけている場合ですか?
「なるほどね。こんな感じになっていたのね。」
目白さんに列車の間取り図を渡すとそう言った。
俺は車掌室から持ち帰ってきた鍵を五号車の開かない扉に差した。
「その図の通り外に繋がっていますね。」
扉を開けた先の景色を見てそう言った。
外側の側面には安全装置と書かれた操作盤があった。
「これを引けば良いんでしょうけどここは暗証番号が必要なようね。」
「列車内はほとんど全て探しましたよ。」
「ほとんど?」
俺の言葉に対して目白さんが反応した。
「どこを探してないの?」
「えーっと、貨物車っていうところです。でも、鍵が掛かってて。」
「それってこれのこと?」
俺の目の前に目白さんはキラキラと光るものを差し出してきた。
そして、そのキラキラと光るものを目白さんは俺の方へ投げた。
それを受け取った俺はキラキラ光るものが何かを理解した。
鍵だった。
しかも、貨物車と書いた鍵だった。
「目白さんは行きます?」
「そうね。列車も見ておきたいし。」
そう言った目白さんは俺の後をついてきた。
やがて二号車まで辿り着き貨物車の扉を開けた。
荷物がチェーンで固定され動かないようになっていた。
そんなチェーンで固定されている棚の下段に人が手を上に伸ばして倒れていた。
「血でよく見えないけど……」
倒れている人が持っていたのは一枚の紙切れだった。
『お前は から、俺 列車の 装置のパスワー の覚え方を教えてやる。
元 係としてな。
この列車の 車両に飾 れている絵 番 がある。
その番 右から三 を見てみろ。
数字が若 順に並べ が ードだ。
れからも よ。』
酷い状態になっていたものの読み取れる文字で俺と目白さんは大体のことを理解した。
「じゃあ、見ていきましょうか。」
「そうね。」
紙に書いてあった内容を要約すると各車両にある絵の下にある番号の右から三番目を若い順に並べるということだ。
一両車を先に俺は見て、その後先を進む目白さんの方へと言った。
「ここが六で最後ね。」
目白さんと合流した後、俺は一両車の番号を伝えた。
「じゃあ、番号は01169ね。」
そう言った目白さんは五車両目の安全装置のロックを解除した。
中にあったレバーを引くと、列車は少しずつブレーキをかけて止まっていった。
俺と目白さんは中に入って列車が止まるのを待っていた。
すると急に大きな揺れが伝わってきた。
「何!?」
ガンっ、という激しい音と衝撃と共に俺は意識が飛んだ。
「ッ!」
ふと俺の意識は急激に覚醒した。
辺りを見回して俺がどうなったのかを思い出した。
「そういえば、列車が急に……」
大きな揺れがあったからか、車内はぐちゃぐちゃになっていた。
少し前の方には目白さんが倒れていた。
それをみるや否や俺は目白さんの方へと走り寄った。
目白さんの元に辿り着くとほぼ同時に列車がバキバキと嫌な音を立てた。
「目白さん!」
「んんっ……どうしたのよー……」
「ちょっと、目白さん寝ぼけてる場合じゃないですよ!あーもう!」
一緒に住んでいるからこそ目白さんがこうなったらいつものようになるまで時間がかかる。
それを知っていた俺は目白さんをお姫様抱っこして持ち上げた。
「あとで謝りますから、許してください。」
「何のことー?」
俺が持っているのに目白さんはいまだにそんな事を言っていた。
バキバキと嫌な音を立てている列車から俺と目白さんは足早に逃げた。
直後、俺たちのいた車両は大きな音を立てて崩れ落ちた。