第98話 二階もあるんですか
「ッ…痛ててて……」
頭を押さえながら俺はその場に立った。
「確か俺は目白さんを……」
記憶を思い出しつつ前を見たがそこは全く見たことのない景色が広がっていた。
木でできた椅子に、レトロな照明器具がある細長い空間だった。
床は小刻みに揺れ動き外は大雨が降っていた。
「列車なのか?」
先ほど拾った剣を片手に俺は向かい側の扉を開けた。
「あれは……」
二両目の扉を開けた通路の先には人が横たわっていた。
そこはいわゆる列車の中の食堂のような場所だった。
横たわっている地面の下からは血が溜まっていた。
「大丈夫ですか!」
それを見るなりすぐに俺はその人によった。
だが、肌はもう冷たく体は重くなっていてもう生きていない事に気がついた。
「何だよこれ……」
その人の顔を見て出てきた言葉はそれだった。
口は何かで抉られたような跡があり、体には何かに吸われたような跡がいくつもあった。
気味が悪かった俺はその人を置いて血溜まりにある鍵を取った。
「客室の鍵か……っ!?」
鍵が何かを調べていた途端、後ろの違和感に気づき咄嗟に剣を出した。
「こんな状態なのに動くのか?」
後ろには先ほどの人が攻撃をしてこようとしていた。
だが、先ほどとはかなり外見が違い右手が黒い何かが集合していた。
「クソっ!」
剣で相手を弾き右肩から左下まで一気に切った。
「どうなってるんだよ。」
切って男が倒れた瞬間、地面についた右手から黒い何かは床に消えていった。
その床にあったのは滑ってた跡だけだった。
「でも、剣に魔力を乗せて力を入れるのはできるんだな。」
剣を見ながら俺はそう言った。
さっきの人を切る時も通常よりも何倍も早く強い一撃が出た。
剣に魔力を乗せることが出来るなら、魔力を使わせてほしいと俺は思った。
「もう起き上がるなよ。」
俺はそう言って奥のドアを開けた。
車両のつなぎめの場所には二階に繋がる階段があったがまずは一階から調べる事にした。
その先には先ほどと同じような黒い何かに侵食された人がいた。
その人は誰かを扉に叩きつけていた。
それを見てすぐさまそれが誰かどうかを理解した。
「目白さん。」
そういうと同時に剣に魔力を込めて俺は奥にいる人の右腕を思いきり切った。
「ヴァアァァァ……」
右腕が切られた事によって目白さんは地面に落ちた。
だが、俺の前にいる人は右腕を押さえて痛みを緩和しようとしていた。
「とりあえずは、お前を殺す。」
すぐに動いて剣に魔力を込めて男を切った。
「ウァァ…」
そう短く言って男は倒れた。
「目白さん大丈夫ですか!」
「ゲホッゴホッ……」
息を止められていたのか目白さんは咳き込んでいた。
「手間かけさせて…ごめん……」
「別にいいですよ。目白さんが生きていただけで。それにここから早く脱出しましょう。」
「そうね。とりあえず列車を止めましょうか。」
目白さんの回復を少し待って前に行って列車を止める事にした。
「閉まってるわね。」
「そうですね。」
「ちょっと、何しようとしてるのよ。」
「何って切ろう思って……」
開かないのであればその扉を丸ごと切ればいいという考えだ。
「それは無理よ。あんたバカなの?」
久しぶりに目白さんにそんなことを言われた。
よく見てみると防御結界があった。
「鍵を探せってことですかね?」
「そういう事になるわね。」
互いに見つめあってそう言った。
「私はここにいるからちょっと探してきてくれない?」
「はい。分かりました。」
俺はそう言ってこの車両を後にした。