#ディストラクションビートミュージック(歌題局天馬の道は厳しいらしい)_1
サーバー#デッド&パンク/<関pUNK州>→→→≪横浜トレインハートネット≫
壊れた自動改札。
止まったエスカレーター。
電光掲示板には死んだ奴の名前。
ハマの駅は、いつだって激戦区だ。
「畜生! 中央改札で張られてやがるぞ。このまま隠れてても/ジェーアール/から来たやつらとも鉢合わせちまう」
「/ソーテツ/まで逃げよう! 最悪、構内の端から――」
密集した各鉄道には、沢山の血が飛び交う。
あちこちに出来た班模様。それはここで朽ちた者たちの墓のよう。
「なっ、ブライアーン! くそが! 一体どこから」
――一閃。
天から振り下ろされた、鮮血色の刃。
同時に暴発音とともに散弾する鉛玉。
「ガンソード……! まさか"やつら"に見つ」
男の声は続かなかった。ただただ、この駅の恐ろしさを知っただけだった。生半可な気持ちでこんな死地に降りるもんじゃない。
でも、仕方ないじゃないか。
「……舞様。銃持ちの2体をキルしました。片方はグレネードランチャー持ちでしたが、被弾はなく、他の敵にも見つかってません」
『ブラボー、天馬。引き続き"狩り"をそこで続けなさい。外の毒ガスの範囲がまた上がったから、どんどん雑魚が構内へ逃げ込んで来るわ』
「御意」
毒ガスという名のダメージ判定エリアが時間経過とともに、マップ中央のこの駅へ向かって来るのだから。
自然とここに集まってしまうのは自明の理。だからこそ激戦区。
「はぁ……全く、舞様とのデュオは体力と精神の消耗が激し過ぎますよ。気を張る事が多すぎます」
駅の中まで漂ってきた不快な毒ガスの臭いに、ため息をしながらガスマスクをする少女。両手には、華奢な彼女の体躯とは不釣り合いな物騒な形の剣が握られている。
刀をモデリングしたガンソード。扱いにくいとされる変形ウェポンだが彼女にとっては体の一部のように自由自在に扱え、プレイヤーを屠る。
『忠良なる臣民である天馬に告げるわ。/ジェーアール/の全線が停電の影響で運転停止した模様。/ケーキュー/は動くから、振替で素晴らしい事になりそう』
「……運が良過ぎですね。一気に仕留めます……やり切れるか不安ですが」
無線相手は彼女が信頼するリーダー。デュオでも流石の状況把握能力で、立ち回りに隙を与えない。
当たり前と言えば当たり前かもしれない。だって彼女たちは――
『ふふ、ここまで運が味方してくれてるのに、2位以下だったら考えものよ、天馬。だからといって、目の前の事に集中出来ないのはダメだけど、ランキングはとても大事よ』
「……仰るとおりです。私も舞様の手前、情けない姿を見せたくありません」
『あら、張り切り万歳ね。精々頑張りなさい』
この世界のトップランカーなのだから。
ここ、<関pUNK州>は生きるか死ぬかが常に問われる殺伐とした世界。一歩あるけば銃撃、火の玉、水の暴力、地を割る光線が飛び交い、生き残るのは強い者。初心者はいっぺん死んでこい。それがここの合言葉でアイデンティティ。
<関pUNK州>の中でも一際激しい現場が≪横浜トレインハートネット≫での争い。
銃火器、魔術、パワードスーツのバケモノ、未知なるパワー、なんでもありのスパゲティマップと呼ばれるここでは、とにかくランキングこそが正義である。
さらに通算スコアよりもキル数がランキングで反映されるため、入れ替わりが激しい。安定したランカーは指で数えられる程であった。
そんな結果主義のこの地で、常に上位に入るスクワッドがある。
[歌題局]
4人の少女の姿たちによって編成された集団は、魔術、銃撃を高い火力で扱い戦場を制圧する。
その中でも、取り分け"歌題局天馬"のスピードは異次元だ。個人のランキングは安定しないが、リーダーの"歌題局風舞"と遜色ない判断力と視野、そして"相棒"と組んだ時の迫力はマップの中で1、2を争う。
その"相棒"、実は何も言わずに脱退してしまったらしい彼女は、今は別のサーバーを拠点にしてるとの事。
そんな彼女へ、当然、天馬は思うところがあった。
「……ねえ天馬、意気込んでた割りに11位って何事かしら? 全く笑えないんだけれど」
「も、申し訳ございません! 敵の遠距離武器の存在に気付かず、射程突っ走ってしまい」
「ウソ。途中集中切れてたでしょ、あなた。はぁぁぁ、そんなに"あの子"が居ないのが気掛かりかしら」
「そ、そんな事!」
「……最近めっきりランキングが保てない。しかも、複数戦闘向きのあなたを戦線に入れてるのに、今は毎度2桁。これがどういう意味かお分かり?」
そんな天馬へ引っ掛かりを覚えるのも無理もない。"相棒"が抜けてから、ランキング首位のスクワッドがずるずると順位を下げ続けてあるのだ。
特にリーダーからの威圧は凄いものだった。
「かかか解雇です、か?」
「やん。あなたは忠良なる臣民よ。そんな酷い事しないわ……ただ」
「た、た、ただ……?」
短く切り揃えられた髪が風に揺れている。それは天馬の運命に対する追い風か、向い風が、誰にも分からぬ。
しかし確かなのは、
「このままだと足手まとい。だから、あなたの"未練"を断ち切って来なさい」
「未練を……断ち切る?」
もう戦場に居場所は無いという事。
「ふふ、あなたの"相棒"――歌題局じゅげむを殺して来なさい」