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#ウォーリーヒーロー(歌題局は霧の中らしい)_2

[###]


 濃霧に全身が麻痺の感覚を覚える。

 まるで俺の周りだけ雨でも降ってるかのような、肌にじりじり走る感触だ。これが次第にあのログアウト時に覚えた痛みを伴う痺れとなるのというのだが、非情である。

 俺と天馬は、山の麓から更に奥へ入っていた。≪前橋マウンテン≫はその名から分かる通り山脈のマップとなっており、入山する事によってマップの内部が分かる特殊な場所だ。≪横浜トレイン≫や≪ロマンス街≫と比べても、かなり不明な所だらけで、全体的に不気味。ホラーな展開が好きなユーザーのアクセス数は一定あるが、ここをホームにするような奴はまず見た事ない。

 別サーバーでありながら、実は<かぶらぎ>から≪前橋マウンテン≫に行く事が出来る。皆は"トンネル"とか呼んでおり、<かぶらぎ>以外にも割と多く存在する通り道だ。まあ、ユーザーはサーバー違えても行った事のある場所ならワープみたいなのが出来るので、別段トンネルを見つけたからどうって事はないが。

 今回そのワープについては、風舞の霧のせいでマップが選択できず、使用は行なえない様子。仕方ないので2人仲良く山登りを敢行してドームがある方角に向かっているのだが……さすがに体力的にもキツくなってきたな。

「先輩。本当に≪前橋マウンテン≫の方に2人が居るんですか? 見当が無い私としては、確証が得られないのですが」

 トンネルの場所を地図で確認しながら、天馬が山道を先に歩きながら俺に言う。殆ど思い付きみたいな俺の提案に、天馬は納得しきってないのは仕方ないが、他に当てなんてないのが現状。ジッとしてても、霧にやられるだけだしな。

「お前が言うように、風舞が金糸を"殺す"のが、あいつの生を実感させるための行為というなら、それに相応しい場所はどこだ? 生きている。そう実感させたいのであれば、あいつは<かぶらぎ>のこの山から遠くない、ドームまで来ると思う――自分で死ぬ前に」

「っ。やはり、気付かれてましたか」

 俺の最後の言葉に、天馬は足を止めて小さく漏らした。

「具体的な事情は知らん。どうやってスーパーゼノの中でそうするのかも、だ。けれど、"灰の輩"の話から察するに、あいつはそっちに行きたいんだろう」

 現実で死に、スーパーゼノの中でユーザーデータとして生き続ける、"灰"という概念。それは、それ自体は、きっと悪いもんじゃないのは確かだ。だが、それは当時に生者を"灰"へと誘う。現実で死にたがる人がいるように、誘われてしまう人間は絶対にいる。

 だから、だからなのかもしれない。

 金糸が、スクワッドを辞めて≪あおはる学園≫に入ったのは。

 現実の学校でも居場所が無いって言ってたあいつは、あの学園マップで味わいたかった本当の自分の姿を見たかったのかもしれない。

「……歌題局の人間は、元のゼノ適正が高いんです。要するに100の情報を100全て受け止めてしまう、そういう感受性が高い人間が殆どです。私はそれ程ではありませんが、普通の人が強く感じない痛みや感情の上下反応を、リアルタイムで覚えてしまう。それが、無意識にじゅげむを――ログアウト拒否させるのに繋がったんです」

 その単語に俺は息を飲む。ログアウト拒否。それは、ログアウトコマンドを唱えても、現実に意識を戻せない"事故"。

 身体が衰弱し切るまで、延々とスーパーゼノの中から抜け出せない。安全装置も、強制ログアウトも、一切効かなくなる。

 それに金糸は――

「本人には拒否の自覚はありません。あったら逆にスーパーゼノの方で拒否反応を検知出来ますからね。だから舞様のように他人からの刺激が必要なんです」

「だからお前も最初は金糸を」

「ええ。本気でやらないと彼女は生を意識しないでしょうから。ですが、今の私は彼女を殺しません。殺さずとも、私はじゅげむの――文の仲間として、生の篝火を灯せますから」

 噛み締めるように言うと、再び歩き出した天馬。華奢な体がどこか震えているように見える気がした。実際に金糸とどういう付き合いなのかとかそういうのは分からないが、ただ上辺ばかりの仲ではないのは悟った。そこまでして金糸を"殺したがる"理由も、俺には見えない繋がりが、行間を多く含みながらも存在しているのだろう。ガチのバトロワマップの強者スクワッド、その一員としてなんだから、当たり前かもだが。

「入り口に着きました」

 緩やかな石階段を登った先、そこには赤錆びれた鳥居のようなオブジェクトが構える別の山の入り口があった。

 山の名は――踊山。

「ここの奥がサーバーのトンネルになってるようですね。掲示板にはそう書いてありました」

「天馬はドームの事、知らんのか」

 同じスクワッドの人間である金糸や風舞が出会ったであろう所だ。スクワッドの一員ならある程度その辺知ってそうだと思うんだが、そうでもない様子だ。

「名前くらいだけですね。それに私は歌題局の、なんとなくの関係性くらいは分かりますが、詳しい事はあまり知りません。スクワッドはあくまで戦う時の居場所。お互い深くは関わらないのがルールですから……それに、私は2人のように、バトロワのみで活動していません。いくつか遊ぶマップの一つ。スクワッドとしては歌題局のみですが、実際はいくつかのコミュニティにも所属している。そんな人間が、昔から接点のあった2人の彼是を、知る訳もないのです」

 そんなもんだよな、と思う。

 俺も≪ロマンス街≫にジャンクを始めとした仲間は居るが、そこまで奴らの過去の事とか、プライベートなとことか、あまりちゃんと聞いた事が無い。それは別段VR空間に限らない。相手の一から十まで知って奴なんて、この世に居ないと思う。

「でも同時に、知りたいと思うのも、また事実です」

 足を進めながら天馬が言う。相手の事を知ってる云々じゃなく、そもそも知りたいと思えるか。結局そこなんだろう。

「それは俺も同感だな。だからドームに行こうと思う。外れでも、あの場には、何かある」

 感情に御託は不要だ。

 俺がその時、その場で、"そう思った"のだから、仕方ない。

「では行きましょうか。踊山の奥――≪前橋マウンテン≫の(ドーム)の中へ」

 きっと引き返す理由なんて、最初からないのだから。

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