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#ロックンロールスター(女は兎らしい)_2

[###]


≪スーパーゼノ≫というVR空間が開放されたのは今からちょうど4年前であった。


 人間の神経をインタフェースとするVR機、所謂フルダイブ機が登場し、毀誉褒貶とアップデートを繰り返しながらも、多くのVR機およびゲームタイトルが出ては消えを繰り返した2030年代、VRソフトは段々とジャンルが一元化され、都度ソフトを購入しなくても、VR空間の中で全てを遊べるように変化した。

 やがてゲームソフトという概念は無くなり、ハードを購入さえすれば、我々はWeb上のVR空間にアクセスし、魔法だろうが異世界だろうが戦場だろうがエロだろうが、全てをVR機を通して体験する事が出来るようになった。

 スーパーゼノは、ハードの制限はなく、どのVR機からもアクセスが可能なタイプのVR空間だ。ユーザーがヘッドギアタイプを使っていようが、コクーンタイプを使っていようが、インターネット環境からどこからでも簡単にアクセス出来る。

 もちろん、従来のパソコンやスマートフォンからもアクセスが可能。非フルダイブユーザーでも従来の二次元的な空間として、スーパーゼノの世界を楽しめる設計になっている。

 特筆すべきは互換性の高さだけではない。なんと言ってもその「広さ」が特徴として挙げられる。

 まず、スーパーゼノには大まかに3つの世界(サーバー)が存在する。


 1つ目はサーバー#ファンタジア

 名前の通りアイリッシュ音楽が似合うファンタジックな世界を楽しみたいユーザー向けの世界となっており、複数の大陸から自分の合った世界観、時代を選ぶ事が出来る。魔法にドラゴン、ルーラルな村に、豪奢なお城。数々の伝説と伝承を辿り、未知の世界を冒険して行くというコンセプトだ。


 2つ目はサーバー#デッド&パンク

 これは終末世界やサイバーパンクな世界をイメージしており、ファンタジアより顕著に大陸ごとの世界観が異なっているのが特徴だ。

 全部で8つのマップから成り立っており、これらを<関pUNK州>と呼んでいる。

 ガスと兵器に塗れたディストピア空間。バイオ戦争によって発生したゾンビだらけの島。そして太陽の昇らないR18な夜の街……といった、玄人でも楽しめる8つの世界が目白押しである。

 詳しい説明は公式のホームページ(https://super_xeno.hogehoge.com/usr/world)に掲載されている内容を確認してほしい。

 ※現在、基幹システム停止中のため、アクセス不可。


 そして最後の世界――サーバー#リアル

 そう。つまりは、現実世界をトレースしたもう一つの「仮想現実」。

 ただただ好き勝手に過ごせるだけの現実と変わらぬ空間がコンセプトで、ステージは2つだけ。戦場用の殺伐とした大陸<まよなか大陸>と、現実と殆ど変わらない平和な島国――<かぶらぎ島>だ。

<まよなか>に関してはリアル寄りのFPS好き等が集まり、一定のアクセス数があるが、もう片方の<かぶらぎ>の方は少ない。

 <かぶらぎ>には全くアクセスする者が居ないという訳でもないが、他の世界に比べるとその数は歴然。

 わざわざフルダイブしているのに、現実なんて見たくないというのが、ユーザーの正直な感想のようだ。

 ……しかしここ最近この過疎地<かぶらぎ>には一定の需要が出て来た。

 その理由は、


 ◇ ユーザーNo356914: 雪日向渓國(ゆきひなたけいこく)


「<かぶらぎ>で、青春をやり直すのか……?」


 3月の深夜であれば、卒業間際のテンション高い大学生の話し声と、名もない虫の甲高い鳴き声が耳障りであるが、この時ばかりはデスクに前のめりになったせいで空き缶やらサプリのケースやら色々と床に落とした俺の方が、住まう集合住宅に於いて迷惑になってる自覚があった。

 当たり前の事だった。

 如何わしい会話を運営にモニタされたくないとの事でVR空間からログアウトし、わざわざリアル通話に切り替え、ジャンク(38歳独身)と話をしている現在2:14。こんなのを見せられちゃ、誰だってそうだ。

『そーよ渓ちやん。ほらぁ、"学園モノ"のマップってスーパーゼノ以外のVR空間だと全然無いじゃなぁい? 出会い厨とかサクラとか跋扈るし、なんせ他の世界観に比べて地味だしねぇ。ぐすん。そーれーゆーえ、スーパーゼノでも、アクセス開放するのは微妙な空気だったんだけどぉ、すごぉく良いカンジに開発が進んだお陰で、大幅なアクセス数が期待できるレベルまでのコンテンツになったんだってー! こ・れ・はぁ、VR空間内で稼いだマネーで生計を立ててるウチらとしては素晴らしい事だと思わなぁい?」

「……何が言いたい」

 俺こと雪日向渓國はこのスーパーゼノというVR空間で”兎使い”として水商売の斡旋をして金を稼ぐ20歳。大学や就職はしておらず、主にVR世界で活動しているいわゆるVプロ(VRで飯を食う人)である。

 一人暮らしゆえ金欠時は短期バイトくらいはするが、一応は新卒の社会人くらいの収入が安定して入るようになったため、しばらくVプロとしてやって行けている時分、同じく古参Vプロであるこのジャンクという気持ち悪い中年に件の学園の話をされているところである。

 相手のねっとり絡んでくるカマ口調に苛つきつつ椅子に座り直すと、通話画面にポップが飛んで来た。タップしてみると、話にあった新コンテンツに関する記事のようだった。


 新発表! <かぶらぎ>マップにて業界初の「ロール機能」実装。

≪私立 あおはる学園≫でもう一度青春をやり直ししよう!


『ンフフ、リアル年齢が反映されるマップだからこそ、渓ちやんじゃないと頼めない話なんだけど――』

「18歳以下はスカウトしないからな」

 変な事を言われる前に釘を刺してやった。いくらVRのR18マップで生計立ててるからと言って、未成年に手を出しちゃガチの警察モノだ。それだけは避けたい。

『あーん! 渓ちやんのいーけーずー! サーバー#リアルだとユーザーはモノホンの年齢公開しなきゃいけないから、1番若い兎使いに頼んだのにぃそんなのあるぅ!? リアルJK連れて来たら大繁盛間違いなしんこなしなしよぉ!? 拙者つらたんイブラヒモビッチでござるわ!』

「何言ってんだオイ……スカウトは基本18歳以上の規約だろ。それ以下に手出すとハラスメント警告になるぞ。まさかチートでエロ解除する気なのか? 警察沙汰はパスだぞ」

 俺の生計元であるサーバー#デッド&パンクの≪柏ニュー・ロマンス街≫は、R18地区として指定されているため、18歳以下は基本的に侵入出来ない仕様だ。現実のパーソナル情報で認識している関係上ここを抜けるには所謂脱獄(チート)な行為をしなきゃならないが……さすがにそこまでしたくない。

 面倒ゴトを避けるという意味でも規約を守るのが無難だ。

『もー、ライバル店が次々と抜け道使って若いコ集めてるのにぃ……このままだとウチの家計は火のマクラーレンよ』

「なんだそれは……まずお前の店、売り上げは酷くないんだろ?」

『わかってないわねぇ。スーパーゼノ内で何億何兆稼いでも、年齢に合わせて色々引かれて、リアルマネーに還元されると何百、何十万円までになっちゃうの。渓ちやんは年齢低いからそこまで引かれないけど、あたしのようなアラフォーには厳しい世界よ。そう、まるで人間ドックの結果のように……ぐ、尿酸値』

 素直に働け、と言いたいのは山々だが、成人でありながら定職も就かず大学にも行ってない、ただVR空間で金を稼いでる(フリーター)が言えるあれでもない。

 けども、金が無くても犯罪者認定されて人生積む方が嫌だ。合法で稼ぎたい。

「稼ぎが増えるなら請け負っても良いが……俺がその≪あおはる学園≫にアクセスするとしても、そもそも女は釣れない可能性の方が高いぞ。そういう目的の奴がわざわざ<かぶらぎ>にアクセスするとは思えん」

 R18マップの世界で釣れる女は、人種としては俺やジャンクと同等。つまり、楽して稼ぎたいからその辺りを彷徨いでる訳だ。

 けど、アクセスする目的として、この新設の学園とやらは、素直に学園モノの格好して仲良く時間を過ごしたいのばかりだろう。あまり良い人材は期待出来ないし、俺らみたいなのはお門違いだろう。

 その旨をジャンクに伝えたところ、チッチッチッと腹立たしいジェスチャーとともにこんなデータが送られて来た。


 緊急アンケート

≪あおはる学園≫に求めるものはなんですか?

 1位 仲間との交流(67%)

 2位 制服(20%)

 3位 学園モノならではのラッキースケベ(13%)


『このアンケートから分かる通り、少なからずダメな大人からの需要があるマップなの!』

 なんだそのマップ。

「……それに答えてくれる女がいると?」

『事前登録者のアンケ見ると、割と女の子のも多いのよぉ。つまり……ンフフ、あとは渓ちやんのテクニック次第って事。素晴らしいスルーパスを期待してるわ』

 など散々熱弁され、俺は結局事前登録をさせられてしまった。いや、こっちも纏まった金が欲しいのでアクセスするのはいいが、成果上げられなかった時はどうするのか……。

 はぁ。

 まぁ、いいか。

 最悪稼げそうな人材が居なかったら、戻ればいいんだし、正直、中高通信性の学校だった俺としても青春やり直しとやらには興味がある。もちろん金稼ぎが第一だが、VR空間で学生になるのも悪くないだろう。

 俺は息を大きく吸ってから、六畳の部屋の一角に置かれたヘッドギアを手に持った。往年のナンタラオンラインよろしく、ベッドに寝転がるスタイルは床擦れ(じじいかよ)ちっくな症状が起きるので途中からやらなくなったが、健全な事だろうが、下衆な事だろうが、エロい事だろうが、全く現実と違和感が無いと言っていいこの世界は、アクセスする度に感動する。

 だからまあ、少しくらいは遊びがあっていいさ。どうせ俺はもう現実でまともに働く気なんてないんだし。


『ンフフ、"せーしゅん"を楽しんで来なされ若者よ!』


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