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#PUZZLE(鉄扇使いは風を裂くらしい)_1

デートをしよう。

 と言うのは、当人たちが宣言してやるものでは無く半ば副次的に、結果的にそのような状況になるのであって、世間がイメージするような女がお粧しに時間を要して待ち合わせに遅刻して、みたいな展開には十中八九なるのではなく、「ん」「おう」くらいのやり取りで始まり、時に騒ぎ、時に無言で、男女で時間経過を楽しむ行為である。

 なんてほざくと、女男に命を掛けているチャラいだけの人類に説教を食いそうだが、やつらはデート自体に愉しむ意味を見出してるのではなく、その後の、ただの肉体接触の前座でしか認識してないのに気付いてないのが往々、全くもって説得力に欠ける。

 女を楽しませる? お前が性欲を愉しみたいだけだろ。

 とまあ、モテない人類共通のヒガミ妬みその他諸々の憎悪と憤怒を甲論乙駁してみたのだが、だがしかし、何の尺稼ぎにならんかったのが事実。

 ぶっちゃけ、俺は純粋無垢なデートなんてした事ない。

「なんだ、あんなにお前とギャルゲー並のデートを重ねたのに、全然爆弾が解決しないじゃないか」

 だから、それを言い訳にするのも仕方ないと思う。俺は女を愉しませる(あっちの方)は得意だが、楽しませるのは苦手らしい。

「金糸、ロニに確認したらお前からの好感度が横ばいだそうだ。何か対策を提案してくれ」

「いや、だから本人に訊くか、それ」

 状況を述べると、俺と金糸は例によって屋上で昼飯を食ったり、放課後に散歩してみたり、近所の水族館に行きマグロを見て「スーパーの刺身ってなんだかんだ手出しずらいよな」とか言い合ったりしたのだが……全然結果が付いてきてなかった。

 くそう。どうしたらこいつの好感度が上がるんだ……。

「スキンシップが足らんのかもしらん。手でも繋ぐか」

「君に触れるとスケベされるという特性を知ってるあたしが、そう易々と頷くと思うな。ソーシャルディスタンスを取れ」

 この辺りもガードが固かった。いや当たり前か。

「今まで水族館に図書館、ゲーセンに映画館。俺の知ってるデート場所は制覇したつもりなんだが。ぐぬ」

 現在、学校から離れた<かぶらぎ>の端、気分を変えて訪れた山沿いにある甘味処にて項垂れる俺と、あんみつをちびちび食ってる金糸とでデートと言う名の爆弾解除イベントを頑張ってるところ、当人である金糸がため息混じりに頬杖を突き、俺に言う。

「てかさ、何回か言ったけど、きっと君が考えてるような事をして、あたしの爆弾が解除されると思わないんだよ。だって別に、君の事恋愛対象でもないし」

「でも好感度を上げないと爆弾は」

「そこ。その前提がおかしいんだって」

 金糸は手に持った長いスプーンをチョークのように動かして説明する。

「確かに美少女ゲームならイベントをこなせば解決する。けど、この世界は二次元的ゲームじゃない。限りなく現実に近い世界な訳だ。つまり、デートする=好感度が上がる=爆弾解除、ってやり方が違う。あたしの爆弾は多分、君に惚れる事で解除されるんじゃあないんだ」

 そうは言われても、じゃあどうしろというのが俺の本音だ。大体、ピンク色アイコンは恋愛したいって意味なのに、ちっともその真似事をしても変わらないのがおかしい。

 その旨尋ねると、金糸は咀嚼しながら答えた。

「そう言われるとな……やっぱ君に惚れるのが手っ取り早いのか……?」

「結婚でもするか」

「おい、何をもって"結婚でも"、なんだ」

「俺の髪が肩まで伸びたらでいい。街の教会で結婚する」

「君はそんなに長髪じゃないし、教会なんて<かぶらぎ>にないだろ。てかなんだそのフォークソングみたいなプロポーズは。時代錯誤にも程がある」

「ふん、スーパーゼノを救うためだ。少しは妥協しろ」

「ああ君がモテない理由が分かった気がする。あれだな、ステータスを求め過ぎて女に距離を置かれるタイプだな。いるよなー、そういう効率厨」

 ここ何日か、こいつと行動を共にしているが、結構ずけずけものを言うタイプなのが分かった。前は人見知りしてたが、ある程度話せるようになると色々言うんだな、と。

 人というのはそんなもんか。慣れは人の素を見出す。だからもっと慣れを増やして行きたいのだが……

「はぁ。ならいっそ、リアルであたしと会ってみるか?」

 思い立ったように、金糸がそんな事を提案してきた。

「サーバーでじゃないぞ。現実で会うちゃんとデートするんだ。今の今まで結局"こっち"ばかりだろ」

「…………」

「なんだその目は。いいだろ、あたしだって、ほら、出会い厨ってのをやってみたいんだよ」

 もはや開き直り気味に言う金糸。俺だってそれは考えた事はあるが、やはりゲームのオフ会的なのって、なかなかハードルが高くて、全然やってきてない。まして異性となんて尚更だ。

 いや、まあしかし。

「お前が良いなら、そうしよう。俺的には関東近郊が有難いな」

「えらくあっさり了承したな……あたしも関東だから、都内辺りならいい」

「都内か……分かった」

 マジのラブコメっぽくなってきたな。

 女と真面目にデート。俺の人生に於いてこんな経緯で非モテルートから外れるとは、なかなかに予想外の結果だ。

 まあ、別に本気で口説く訳でもないし、あんまり期待せずにしたいな。

 時間を決め、俺と金糸は甘味処を後にし仮想世界でないリアルの方へと戻ろうとログアウトコマンドを唱えようとした――その途端。

「がはっ」

 俺と金糸はその場にしゃがみ込んだ。まるで電撃が走ったような感覚が突如襲ったからだ。脳の奥を痺れさせる強烈な痛み。息が荒くなる。

「な、なんだ。俺、ログアウトコマンドを口にしたただけなんだが、痺れが」

「これは――」

 言って金糸がハッとする。

「なあ、あたしと会ってから同じような"痺れ"をログアウト時に覚えた事はないか? 違和感みたいな、そういう感覚だ」

「違和感……」

 そして俺も今の感覚の既視感を思い出す。そうだ。あれは確か、≪ロマンス街≫での一悶着、未だ継続されているハザードの原因となった過負荷。あの夜のログアウトの時に覚えた、微かな――確かな違和感。

 "痺れ"。それは、俺も感じていた。

「あぁ、言われてみれば確かにあった。でも逆に、金糸に言われるまで気づかなかったレベルだ。なんでこんな時に」

「……わからんが、取り急ぎあのチビに訊いてみるか。運営側なら、何か」

 知ってる、そう続くところだった筈の金糸の言葉は、いつの間にか口だけの動きとなってしまった。


 金糸が、倒れ込んでいた。

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