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#ロックンロールスター(女は兎らしい)_1

薄手のブラウスのボタンを外す。

 シワのついたスカートが落ちる。

 ベッドに小麦色の柔肌を沈ませる。

 人差し指の感触に甘い声が漏れる。

 ブラウス越しの膨らみが布を擦る。

 桃色の空気に音を出す。

「……だめ、みえちゃう」

 髪を撫で、

 手を絡め、

 唇を無理矢理、

 下着は抵抗虚しく、

 何度も侵された領域に、愛のない騒めき、口に出る――モドカシイ。

 好きな男じゃないのに、抱きしめられると、色が変わる。

 切ない。

「……はずかしい」

「…………」

「でも、いいよ」

「…………」

「ぜんぶ、あげる」

「…………60点だな」

「……え?」

 それが例え、嘘の演技でも。

「脱がされた動きにエロさがない。手で隠しつつ相手にくっつく、自分から脱いで続きを相手に促す、そうやって客にオーケーサインを示せ。金を払って呼んだ女が恥ずかしがる言動だけでしてても相手の要求は満たせない……ほら、面接前の最後の研修だ。しっかりやれ」

「…………はぁ」

 ――女たちの甘い声に満ちている。

 何度も聞いた猫被りの声音、吐息。

 欲望に満ちた男たちの疲れた表情に、女たちは手の平を差し出す。渡されるタバコ臭い万札が、唯一の潤い――腐敗した街。腐り切った空間。

≪柏ニュー・ロマンス街≫


 乱れた風俗がこの街の全てだ――


「いやはや、全くもって素晴らしい売り上げねぇ、渓ちやん」

 間接照明の中に怪しく笑う青髭男は、俺の名を粘ついた声で呼ぶ。

 夜、深くなったこの時刻、この狭い部屋の端でその言葉の意味を読む。

「たった数ヶ月でこぉんなに人気銘柄を輩出してくれるだなんて、さすが敏腕の"兎使い"ねぇ。テクニックにホレボレしちゃうわぁ」

「ふん、御託はいい。さっさと今回の要件を言え」

「せっかちねぇ」

 青髭男は葉巻に火を着けながら手元のホロディスプレイを見つめる。画面には女たちの甘い姿が映し出されていて、リアルタイムで"商品"の値段が変動している。

「ここの"兎小屋"のお陰で、渓ちやんの評価もだいぶ上がったのも事実。けどぉ、夜の業界ってのは飽きも早いわぁ。顧客の提案は大事にしないと、兎使いはすぐにダメになるわよぉ」

「そんな忠告をするために俺を店まで呼んだのか? クライフェルトならもっと熱いままミルクを俺に寄越すぞ。さっさと依頼を言え」

「ンフフ、あなたはサビオラというよりフィーゴね。兎ちゃんを売るのは上手いのに、飼うのは下手。ウチの子を味見させてあげた時もそうだったけど、結果ばかりで優しさが足りないわ」

 俺を見る目に怪しさが宿る。兎と称して女を売る商売上、"そういうやり取り"は兎小屋と兎使いの間であるものだが、俺は男は相手にしない。ヤるとしても女だけだ。何をヤるかと言えば味見という名の大人のあれとそれ。つまりは売り物としての品定め。フェミニストには悪いがこれも生活のためである。

 ――水商売のスカウトなんて、こんなもんだ。

「ヨーコの事を言ってるなら、あの女にも非がある。俺は事前に評価する項目を言ってたのにも拘らずあいつが好き勝手してきたんだ。そりゃすぐ終わらせる」

「遊びがないわぁ。融通効かないのはあなたの悪いところで、改善点よぉ。健全な男の子だったら戯れを楽しまないと……まあ、今は良い値段になってるからー、全然いいけどね。ンフ、売り上げは正義だから」

 この店トップの値段であるヨーコの契約書をホロディスプレイに映され、涎を垂らす青髭男。兎は高額になれば千万単位から億単位だ。その分、兎使い――スカウトにもフィードバックはある。言い方は悪いが、俺もこいつには良い財布になってくれたと思っている。

 その実、はした金だが。

「けどねぇ、渓ちやん。まだまだ売り物が足りないわぁ」

 俺のメインクライアントであるこの青髭男の名前はジャンク。その名に相応しく、金のためならどんな汚い事でもする――エロも、クスリも、殺しも≪柏ニュー・ロマンス街≫で頭抜ける下衆野郎。

 ジャンクはソファの上で悪の親玉よろしく指を鳴らすと、女子高生の制服を着た女どもが奥から現れ、俺を囲んだ。安っぽい香水の匂いが、タバコ臭さと化合する。

「で、これが本題ってか?」

 俺の問いかけに、女のうちの1人が体を絡ませながらタブレット端末を寄越した。下半身に艶めかしい感触が走り始めたので軽く肘打ちした。

「ご明察。ねぇ渓ちやん、あなたって早くからこの業界に居たから、正々堂々な"せーしゅん"って味わった事ないでしょ」

「主にエロい方の"せーしゅん"だからな。それがどうした」

「ンフフ、あたし的にわぁ、渓ちやんにちゃんとしたアオハルを送ってもらいたいのよ……この店のために」

「アオハル……? 学生をスカウトしろって話か?」

 囲んでいた女どもが制服を着ている点から見てそういう事かと思ったが、ちょっと違うらしい。ジャンクにタブレット端末を指差され、画面に映っている文字を読んでみると、どうやら遠くに"学園"が開放されるとの事。

 まさかと思ったが、この男。


「――そこに入学して、サイコーにえっちな兎ちゃんを連れきて」

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