41
翌日、エレノアはルークを探していた。授業が終わったら、隣のクラスへ入り、ルークの姿がそこにいないか探していた。
いたわ。席に座っている後ろ姿を捉えると、一直線に人波をかきわけて歩いて行く。
「ルーク、手伝って」
急にわたしが話しかけたからであろうか、ルークは目をぱちくりさせてわたしに尋ねた。
「なにを?」
「えーっと」
図書室の禁書コーナーに忍び込みたいの! とはここでは言えない。誰かに聞かれたら計画が破綻してしまう。
「言いよどんでいるってことは良くないことなんだね?」
ルークは眉をひそめ、そう言った。
「いや! 正しいことよ! それに」
わたしは慌てて言った。
「美人の手伝いが出来るのよ」
わたしがキメてそう言うと、ルークは我慢できずに吹き出した。こんなに爆笑しているルークを見るのは珍しいかもしれない。そんなに笑わせるつもりはなかったのだけれど……。
「そう言われちゃったら、手伝うしかないね。で、どうすればいい?」
ルークは笑い涙を拭きながら、そう言う。
「明日の消灯後、図書室前で集合よ」
わたしは小声でそう言い、その場を後にした。
◇◇◇◇
翌日、消灯後。
わたしとルークは図書館前で集っていた。
「いい。禁書コーナーは魔力が張り巡らされているわ。つまり、魔力の源になる感情に反応するってわけ。これからは無の心持ちで侵入するわよ。何かに感情を抱いたら、その瞬間わたしたちは前よりも酷いお仕置きを喰らうことになるわ」
「わかった」
ルークは一度窓越しに図書館の中を覗き、心配するかのような、不安なオーラを放っていたが、「……エレノアを信じるよ」という言葉と共にいつもの優しい笑顔がわたしに注がれている。
わたしはその笑顔に頷きで返し、早速図書館内へと入っていった。
禁書コーナーは図書館内の一番奥にある。わたしはランタンを持ち、一番先頭に立つとおそるおそる歩いて行った。高くそびえ立つ本棚を越え、禁書コーナーの入り口に立つ。禁書コーナーは入り口にまで魔力が張り巡らされていた。緊迫とした、重々しい空気が辺りに漂っている。
「入るわよ」
わたしはそう言って、取っ手に手をかけると、「待って」とルークがそれを制した。
「鍵がかかっていると思う。魔力で開けたらすぐにばれる。僕に任せて」
ルークはそう言うと、ポケットからヘアピンのようなものを取り出し、鍵穴にそれを入れて何か器用にいじっていた。
わたしとしたことが。鍵の存在をすっかり忘れてしまうなんて。それでもルークがピッキングの技術を持っているようで良かったわ。……少々、意外だったけれどもね。だって、のんびりとしたお坊ちゃまというイメージが強いじゃない。そんな人間がピッキングなんてできると思うわけないじゃない。
「できたよ」
「ありがとう」
わたしはお礼を言い、早速恐る恐る中へと入っていった。




