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幼なじみのメンツで中庭に移動すると、そこには同年代の1人の少年がいた。
身なりから同じ貴族であろう。青色の髪に褐色の肌を彼は誇っていた。
「じゃあ、始めるか」
ヘンリー王子はそう言うと、少年の腹に蹴りを入れた。
それを見たわたしは思わず呆気にとられてしまう。
――何してるのよ。こいつ。
それに続き、カインも倒れた少年に蹴りを入れる。少年は抵抗もせず、苦しそうに耐えていた。
「なんでこんなことするの!?」
わたしは思わず、声に出してしまった。隣にいるカナリアがふふっと笑いをこぼす。
「エレノア、忘れちゃったの? 今はクロサリア人がこの土地を統治しているのよ。ゲルン人なんて、好きにしていいのよ」
カナリアはまるで小鳥が囀るようにそう言った。
おかしい。そんなのはおかしいし、わたしはそんなこと知らない。ゲームには国勢状況など一切描かれていなかった。
わたしは戸惑いのままに少年が蹴られていくのを眺める。
こんなのおかしいじゃない。
人を蹴って、それが正しい?
人を蔑んで、それが正しい?
人をいじめて、それが正しい?
そんな正しさなんて、絶対間違っている。
わたしは一歩前へと歩み出た。
「やめなさい」
わたしははっきりとした輪郭を持って声を出した。
2人は一瞬蹴る動作をやめ、驚いたようにこちらを見る。
「エレノア、どうしたんだよ」
「常識じゃないか、こんなこと。今日の君はおかしいよ」
常識? これがこの国の常識なのか?
わたしは絶対に許さない。少年に向けて歩み寄る。
「立ちなさい」
戸惑うカインとヘンリー王子を尻目にわたしは少年に向き合う。
「立って、今すぐ立ち去りなさい」
「エレノア! 僕たちは正しいことをしているんだよ!」
ヘンリー王子の声にわたしはかっとして、振り向く。
「そんな正しさ、こちらから捨ててやるわ」
そう言って、きつくヘンリー王子を睨みつけた。
そうだ。わたしはそんな国の正しさを通すほどなら、正義とは逆の道を行ってやる。自分の正しさを通して、反吐を吐くほど嫌だった悪役令嬢にだってなってやる。
そして力を持った悪役令嬢となったわたしの思う正しさをこの国の基準にしてやるのだ。
わたしは少年の腕を掴み、中庭を去っていった。




