36 カナリア
カナリアは憤っていた。
何故、わたしがエレノア主催の御茶会に招待されなかったのか。あの決闘以来、エレノアには優しくしてきたというのに。あの決闘でわたしが偶然勝ってしまったから、エレノアは相当のショックを負っているはずだ。だから、エレノアには他のこと接するように関わってきたというのに。それなのに、わたしが何故あの御茶会に呼ばれなかったのよ!
しかもおまけにエレノアといったら、ゲルン人の子ばっかり招待して、一体何がしたいのかさっぱり分からないわ。どうせなら、わたしみたいな華の権化である聖女子を呼んだ方が御茶会に一層盛り上がりを添えられるというのに。カナリアは廊下を歩きながら、悔しげに親指の爪を噛んでいた。
「あら、ヘンリー」
わたしの運命の人であるヘンリーが前から歩いてきた。わたしは急いで彼の名前を呼び、そばへと駆け寄っていく。
「あぁ、カナリア」
ヘンリーはにこりと優しく笑う。いつでもにこやかで優しいヘンリーがわたしは大好きだ。前世からずーっと。
「エレノアったらまったく酷いのよ! わたしたち幼なじみの仲であるというのに、御茶会に招待もしないだなんて! 本当に無礼な行いだと思いません?」
ヘンリーはわたしの憤りを聞くと、ハハッと声に出して笑った。
「それなら、わたしも呼ばれていないよ、カナリア」
「それはもっと無礼じゃないの! エレノアったら、一国の王子を招待しないだなんてどんな胆力しているのよ。きっと、厚かましく育てられたのね。公爵家に生まれたんだもの。そのくらいワガママ言っても許されてきたんだわ。よくよく考えてみれば、ルークを連れ出したときから、そんな予兆が……」
「カナリア、それ以上わたしの前でエレノアとその家族を卑下するつもりなら許さないよ」
いつになく冷淡なヘンリーの声がわたしの耳に届いた。顔を見上げると、そこにはいつもの笑顔は消えていた。ただ美形の冷たい圧だけがわたしに取り残されている。
どういうこと。ヘンリーはどこまでも優しい王子ではないの? 公式では「心優しい王子」と紹介されてたじゃない。こんな些細なことで怒るなんてこと、ゲーム内でもなかったじゃない。カナリアはその圧に圧倒されながらも、ヘンリーが自分の味方になってくれなさそうなことにひどく傷ついていた。
「そんな、わたしにはヘンリー、あなたしかいないのに。そんなことを言うのね」
わたしはヘンリーの腕を掴んだ。今放った言葉の信憑性が増すように、それは強く掴んだ。
「カナリアにはわたしだけじゃない。もっと多くの仲間がいるだろう?」
「いないわ、そんなの」
「いいや、いるさ。カナリアが拒絶しているだけだ。それじゃ、わたしはここでお暇させていただくよ」
そう言って、ヘンリーはわたしの腕の振り払うと、廊下の先へと歩いて行ってしまった。わたしはひとり、廊下に残されていた。
こんなんで、将来エレノアとの婚約を破棄させられるのかしら。
そんな言葉が頭の中で渦を巻いていた。




