32
入学して一週間が立ち、エレノアは完全にクロサリア魔法学園の勝手を掴んでいた。今は授業が終わり、廊下を歩いているときであった。
えぇと、魔法基礎学の授業が終わったから、次は錬金術学の授業ね。あとで復習もやっておかなきゃ。
錬金術の授業は三階だ。ここは二階だから、早く移動しないと。
わたしは階段を急いで昇っていく。その時、女の子のうめき声が階下から聞こえた。わたしは条件反射でなにも考えずに階段を降り、声の主を探す。どうやら一階の階段裏にいるようだ。
「ゲルン人のくせに、一丁前に登校していて恥ずかしくないの?」
「どうせ、多額の寄付金で入学できたんでしょ?」
「わたしたちにもその金ちょうだいよ」
聞き捨てならない言葉であった。一人の女子生徒がカツアゲされてるのだ。わたしは早足で階段裏に足を踏み入れた。
「去りなさい」
わたしのひと言に三人組の女子学生がこちらを向く。
「はぁ?」
わたしはその牽制に構わず、言葉を吐いていく。
「わたしたちが入学したクロサリア魔法学園の入学基準はひとえに魔力を持ってるか否かよ。それは貴方たちも知っているでしょう? それとも自身の入学した学園は寄付金ごときで生徒を優遇する下劣な学園だとでも言いたいのかしら? そうだとしたら、あなたたちも同じく下劣な人間ね。いいえ、あなたたちは既に手遅れね。醜いったらありゃしない」
「それに、今のやりとり録音しといたわ。これを学園長に提出したらどう思うかしらね」
そうわたしはメモ帳をちらつかせた。つい最近学んだ、魔力でメモ帳に声を記録する方法が早速役に立った。
三人組の女子学生は顔を見合わせると、悔しげな表情を浮かべてその場を去って行った。やはりこの学園にもゲルン人差別が根付いている。わたしが在学中になんとかしないと。
「あの、ありがとうございます」
振り向くと、そこには虐められていた女子学生が地べたに座り込んだままそう言った。
「いいの。わたしがやりたいから、やったことだから」
言葉と共に、彼女に手を伸ばし、彼女を立ち上がらせた。
緑色の髪の毛は三つ編みひとつにまとめられ、前髪は目にかかっている。分厚い眼鏡と下を向いているせいで瞳の色が何色なのかは分からない。
「あ、あのレベッカと言います。どうかお友達になってください」
「いいわよ」
考える間もなく返事したのが、彼女を驚かせたのか、レベッカはこちらを見、目を見開いた。可愛らしい桃色の瞳がまん丸に見開かれている。
「本当ですか! わたし、友達が欲しくて、独りが怖くて、毎日が憂鬱だったんです!」
早口でたたみかけるその言葉の圧に押され、わたしはひとしきり頷いた。根暗な子かと思いきや、意外とそうではないのかもしれない。
「じゃあ、早速友達らしいことしましょう」
わたしはひとつの名案と共にそう言葉にした。その途端、授業始まりの鐘が鳴った。
「「あ」」
わたしたちは顔を見合わせると、慌てて階段を昇っていった。




