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「おーい!エレノア!」
外に出るとヒロインの義理の弟、カイン・ガーランドが手を振りながら、こちらに駆け寄ってきた。彼は隠れ攻略キャラで、ヤンチャ系として公式に扱われていた。
「待ってたんだぞ!早く行こう!」
くせっ毛の金髪に碧眼を持つ彼はわたしの手首を引っ張り、馬車の中へと連れていった。
馬車で連れて行かれた先はガーランド家の邸宅であった。乙女ゲームでも幼少期はいつもここの中庭にみんなで集まり、話をしたり、読書をしたり、たまには即興劇をもしたりしていたと話題に上がっていた。
「やぁ、エレノア」
そう挨拶してきたのは、現在婚約者、いずれそれも破棄されるであろう、ヘンリー王子。栗毛色の髪にそばかすが愛らしい。見た目からも優しそうな人であった。実際、公式からも「心優しい王子」として紹介されている。
わたしはゲームの液晶越しではなく、なんの隔てもなくヘンリー王子を見れることに感動した。ヘンリー王子は息を呑むほどの美形だ。
わたしはついつい見惚れてしまった。いけない、いけない。どうせ婚約破棄されるのだから、軽率にときめいてしまってはいけない。
「ごきげんよう」
愛らしい声が聞こえた。振り返ると目の前にはカナリア・ガーランドがそこにいた。金髪のウェーブヘアに緑の瞳がとても綺麗だ。色白の肌によく白のドレスが映えている。
わたしがなるはずだった、カナリアを前になんだか苛つきの感情が止まらない。
これはエレノア・フィツェーレの血のせいか、それともわたしの嫉妬からくる僻みだろうか。
ともかく今のわたしは悪役令嬢などではないので、その苛つきは外には出さずに呑み込むことにした。
「ごきげんよう」
そうわたしは皆に返した。




