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新入生歓迎パーティーは盛り上がっていた。生徒たちが和気あいあいと話している姿を見ているとそう感じられる。
わたしとカインは暫くパーティーを楽しんでいたが、もう既に十分楽しみ尽くしたので帰ろうかと話していた。
「今年の1年には光の魔力の使い手と闇の魔力の使い手がいるんだろう?」
誰かの大声がパーティー会場に響く。群衆は一斉に声が聞こえた方を見る。
「たいそうなもんだな! せっかくだから、ここで魔力を披露してくれよ」
生徒らの群衆はざわざわと騒ぎ出す。わたしも当惑のまま、それを聞いていた。何人かの生徒がまるで酔っ払いかのように、大声でわめき立てている。
「どうせなら、対決してもらおうよ!」
「それがいい! 逸材揃いでどっちが優れているか良い見物じゃないか」
「おい、該当者はこっちにこい」
群衆はすっかり静まりかえっていた。誰もが、わたしとカナリアの登場を待ち望んでいる。
わたしは気を引き締め、騒いだ学生の前へと歩いて行く。群衆の息を呑む、声にならない声を聞いた気がした。そこにいる誰もが、わたしの方を見、わたしに道を空ける。
にやにやと嫌な笑みを浮かべる学生らの前につくと、カナリアも控えめに礼をしながら、学生の前へと躍り出た。わたしとカナリアは互いに目を合わせる。人前だからか、カナリアの目線はそう鋭くなく、怯えているようにも見えた。いかにもひ弱なヒロインって感じである。
一度はヒロインを夢見たが、やはりわたしの性根的にヒロインに転生しても、原作通りのヒロインにはなれなかっただろうと思う。かといって、実際悪役令嬢に転生したけれども、原作通りの悪役令嬢を目指してはいない。わたしは良い意味でも悪い意味でも我が強いのかもしれない。
「簡単な魔法バトルがいい。決闘スタイルはどうだ?」
「いいねぇ、互いのシンプルな魔力量を量れる。ぴったりだ」
わたしが物思いにふけっている間に、勝手にわたしとカナリアが決闘することになっていた。決闘って言っているが、流石に安全なものであるか少し心配になってしまう。こんなところで命を落としちゃいました、なんて冗談じゃない。
「皆さんついてきて!」
大声で騒ぐ学生にぞろぞろと群衆は後を追った。ついていった場所は会場から少し離れた芝生の上であった。
「ここなら暴れても大丈夫だぜ」
「さ、今から二人には決闘をしてもらう。互いに背中を合わせて、十歩歩く。そして、こちらの合図で振り返り、魔力を相手に向けて放つってやつだ」
「賭けるなら今のうちだよ~」
「至ってシンプルだろ?」
「さ、準備、準備!」
わたしたちはうんともすんとも言えなかった。そんな隙は与えられなかった。気づいたら促されるまま互いに背中を合わせている。
「10!」
生徒らのカウントが聞こえる。わたしは一歩カナリアから離れた。
「9!」
こうなったら、本気でやるしかない。わたしの実力を知る良い機会だ。わたしが今まで特訓してきた成果を試すことができる。
「5!」
それにここで勝ったら、成績優秀者への道もうんと近づくことができる。全校の生徒にわたしの優秀さを広めることができるのだ。絶対に負けるわけにはいかない。
「3!」
それに、意地悪なカナリアに負けることは個人的に癪であった。
「始め!」
瞬時に振り返り、わたしは魔力を放つ。黒い渦が闇に紛れるようにカナリアへと飛んでいった。しかし、カナリアから放たれた光はうんと眩しいものであった。互いに魔力を出し続け、それは桔梗しているように思われた。ふと、目の前が一気に明るくなる。わたしはそのまま吹き飛ばされ、気づけば芝の上で寝転んでいた。
群衆がわぁと騒ぐ。勝敗がついたのだ。それもあっという間に。カナリアの周りを群衆が囲む。わたしは芝生の上で一人取り残された。
自分の負けを思い知ったが、わたしはそれに耽ることなく、すぐに立ち上がった。こんなに大勢の前で負けるのは屈辱的だが、そのせいで身を取り乱すことはもっと屈辱的なことであった。
わたしは背筋を伸ばし、毅然とした態度で、パーティー会場へと戻っていった。