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放課後、わたしとカナリアは自室にて互いに向き合いながら座っていた。わたしとカナリアの背後には、心配げにメイドが立っている。
今日は夜に新入生歓迎パーティーがあるため、その準備のためにもはやく課題を終わらせなければいけない。わたしたちは張り付いた笑顔のまま、互いを見つめあっていた。
「じゃあ、早速課題始めましょう」
わたしの言葉にカナリアは「そうね、はやく終わらせたいわ」と返す。やっぱりその言い方にどこか棘を感じた。
わたしは諦めないわ。今日で、この課題で、わたしたちは歩み寄るのよ。少なくともわたしはその姿勢をみせるの。
「まずはお互いの第一印象からね。わたしはカナリアのこと、綺麗で優しそうな、穏やかな子って思っていたわ」
「思っていたということは、今はそう思っていないのね」
「えぇ、良くも悪くも気が強い子だと思っている」
わたしが話している間もカナリアは自身の髪の毛をいじっていて、なかなかこっちを向かない。
「奇遇ですわね、わたしもあなたに対してまったく同じことを考えていましたわ」
絶対違うでしょ。絶対、違うなにか――もっと意地悪ななにか――をわたしに対して抱いていたでしょう。適当に返事しただけでしょう。
何故、ヒロインであるカナリアはわたしに対してこんなに邪険にするのだろう。あくまでも、彼女は皆に優しい、朗らかな女性であるはずだ。なのに、わたしに対してだけはこんなにも邪悪な雰囲気を漂わせている。目線がナイフのように鋭すぎる。
「まぁ、どんなに印象が同じだからって、聖女子であるわたしと悪役令嬢であるあなたとでは、辿る道は大いに違うでしょうね」
「もう課題は済んだわね。さ、わたしは歓迎パーティーの準備に取りかかるわ。エレノアも早く準備を進めることね」
カナリアはそう言って、席を立った。
わたしはカナリアが動き出しても尚、一つの単語に気を取られていた。カナリアが言った「悪役令嬢」という言葉だ。
この乙女ゲームの世界で一度も悪役令嬢と言われたことがない。そもそも、今のわたしはヒロインに意地悪をする、世間一般の典型的な悪役令嬢ではない。そんなのは目指してもいない。なぜ、カナリアはわたしのことを悪役令嬢と自信を持って、言ったのだろうか。わたしは席に着いたまま、暫く考えを巡らせた。途中でアメリが心配して声をかけたが、返事をしただけで、考える事をやめることはしなかった。
やっぱり、答えは一つしかない。きっと、彼女もよその世界から来た転生者であるのだ。だから、わたしに明確な悪意を持って接しているのだ。それもしょうがない。なんせ、ヒロインを邪魔する者と言えば、悪役令嬢であるエレノア・フィツェーレしかいないのだから。
わたしは唐突な事実に暫く戸惑いを隠せなかった。しかし、暫く時間が経ち、それは大きな問題ではないことに気づく。
そう、わたしの目的は自分の思う正しさを貫いて、最終的にはこの国の基準を変えること。それをカナリアが邪魔するとは思えないし、邪魔されてもいない。だから、カナリアが同じ転生者であっても何も問題はない。わたしはただ目的だけを見据えて行動すればいいのだ。
わたしは改めて確認した決意をもとに席を立ち、新入生歓迎パーティーの準備を始めた。




