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 荷ほどきが終了し、わたしは学園内を散策していた。何より、カナリアのいるあの部屋に居続けることが嫌だったし、特訓で使えるような、人目のつかない場所を探したいということもあった。


「やぁ、エレノア」


 聞き覚えのある胡散臭い声にわたしは振り向く。そこには一応婚約者である、ヘンリー王子がいた。ヘンリー王子は一学年上の先輩である。16才のヘンリーは言葉通り輝きを増していた。元からあった美形がさらに磨かれている。さらさらの栗毛に優しそうな瞳。そばかすは幾分か薄くなったように見える。全体的に温和そうな見た目は変わらないのだが、わたしはどうしてもその姿を見ても胡散臭いようにしか感じなくなっていた。ヘンリー王子は絶対優しい人間ではない、腹の底には絶対黒いものが渦巻いているという直感だけが働いていた。


「こうして会うのは随分と久しいね。元気にしてたかい?」

「えぇ、もちろん」


 わたしは素っ気なく答える。これも作戦のうちのひとつであった。悪役令嬢であるエレノア・フィツェーレはその傲慢さから、ヘンリー王子から婚約破棄される。ならば、ヘンリー王子に婚約破棄されるということは、わたしが真の悪役令嬢になれたかどうかの基準のひとつであるのだ。まずは早々に婚約破棄されなくてはならない。その為にもわたしは素っ気ない、ひどい態度をとり続けていた。

まぁ、こんな根拠のあるような言葉を並べてはいるが、結局のところそこまでヘンリー王子のことを好きになれないのが原因にあった。


「ヘンリーこそ、まだそんなに元気でいらしたのですね。精神を病むほど、婚約破棄したくて堪らなくなっている頃かと思っていましたわ」


「エレノア、きみはまったく、なんてことを言うんだい」


 そういうヘンリー王子の顔には少しの恍惚が見て取れた。まったくもって、意味が分からない。この文脈で頬を染める要素がどこにある? わたしはうっすらと形だけ笑ってみせた。


「わたし、もう行くわね」

「まって、エレノア」


 ヘンリー王子の言葉にわたしは足を止める。


「クロサリア魔法学園にようこそ」


 キザを装いそう言うヘンリー王子に耐えられなくなり、わたしは薄く笑ってその場を後にした。



 ヘンリー王子から離れた後、またわたしは人目につかない場所探しを始めた。


 どうせなら、ヘンリー王子じゃなくて、ルークに会いたかった。ルークはわたしと同い年であるから、きっと今頃荷ほどきをしているころだと思う。ルークといると心が落ち着くし、同時にやる気がみなぎるのだ。あらゆることにおいて、頑張ろうと思える。そんな力がルークにはあった。


 最近はノアと特訓ばかりしていたから、会うことも少なくなっていた。ちなみにノアもその魔法の才能から、今年からこの魔法学園に通うことになっている。


 わたしは学園の校舎から出、庭をひたすらに歩いていた。どうやら校舎内はどの教室も頻繁に使われているようだ。この広大な庭なら、そのどこかに良い隠れ場所があるかもしれない。

 暫く歩くと、湖が見えた。その畔には大きな木が一本生えている。

 ここ、良いかもしれない。ここなら日陰にもなるし、校舎から遠いこともあって、人も通らないだろう。

 よし、今日から特訓はここで行うんだわ。

 わたしは自分に活を入れ、とりあえず魔法の特訓を始めた。



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