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 冬が終わり、春がクロサリアに舞い込んできた。

 桜は満開となり、まるでエレノアの門出を祝福しているようである。エレノアは晴れて、今日からクロサリア魔法学園のいち生徒となる。


「将来のためにもしっかり勉学に励みなさい」

「応援しているわ」

「はい、頑張ります」


 お父様とお母様は馬車に乗ったわたしにエールを送ってくれた。クロサリア魔法学園は全寮制の学校。二人に会えるのはしばらく後になってしまう。わたしは少し涙ぐみながらも、背筋を伸ばしたまま座っていた。


 今日この日の為に、今まで特訓してきたのだ。入学生の中で一番魔法を上手く扱えるように、一番知識を持った人間であるように、今まで努力してきたのだ。そんな日々とも、もうお別れになってしまう。わたしは一度、お母様とお父様、そして、長年育った屋敷を見た。もう、後戻りすることは許されない。わたしはクロサリア魔法学園を上手く利用して、自分の正義のままに生きる悪役令嬢になってやるんだわ。

 わたしの決意と共に、馬車は動き始めた。


 馬車に揺られて二時間後、とうとうクロサリア魔法学園に到着した。元宮殿をリノベーションして作られた校舎は、歴史が在りながらも、新しく建てられたかのように輝いていた。わたしが馬車の車窓から外を眺めていると、馬車はそのまま校門を通過していった。そして、ポーチに止まると馬車は停止した。


「エレノア・フィツェーレ」

 

 そう呼ばれると共に、馬車のドアは開かれ、わたしは馬車を降りる。入り口には教師が並び、先に到着していたメイドのアメリも並んでいた。


 教師らはわたしを歓迎し、わたしは促されるまま、建物の中へ入った。


「まずは宿舎をご案内します」


 メイドのアメリがわたしの隣に並び、そう言った。ホールにぶら下がる大きなシャンデリアが綺麗でわたしはそれに見入ってしまっていた。それと同時に新たな生活が始まるわくわくが抑えられない。きっと、良い学校生活にしてみせるわ。

 わたしはそんな意志と共に、アメリの後をついていった。


「当学園は、他者と友好関係を築く為に部屋は相部屋であるそうです。なにか不便がありましたら、なんなりと申し出ください」


 赤い絨毯が敷き詰められている廊下を歩きながら、アメリはそう言った。


 相部屋か……。誰だろう。わたしが頭に浮かべているあの子以外なら、きっと上手くいく気がするんだけど。どうしても、あの子と相部屋になる予感しかしないわ。


「ここですね」


 アメリが扉を開く。

 そこにはカナリア・ガーランドがメイドと共にいた。

 ……やっぱり。


「ごきげんよう、エレノア」

「ごきげんよう、カナリア。これからよろしくね」

「えぇ、あなたの起こす問題に巻き込まれないように気をつけるわ」


 カナリアの毒舌がいつになく効いている気がする。わたしも負けじと、「それはお互い様ね」と答える。


「わたしが起こす問題って一体何かしら。あなたは前科持ちであるというのに……」


 前科とはきっと、八年前のあの集まりのことだろう。わたしがルークを連れ出して、誓いを立てたあの日の出来事だ。


「そうね、言ったことを改めるわ。あなたみたいな退屈な人間が移らないか、それが心配だわ」


 乙女ゲームのヒロイン、カナリア・ガーランドを目の前にしているせいか、悪役令嬢の役がすんなりとわたしのものになっていく気がした。自然と、皮肉めいた言葉が喉から出てくる。それとも、カナリアが率先してわたしに皮肉をぶちまけているからだろうか。


 カナリアはふんと鼻をならし、メイドによる荷ほどきを見守り始めた。わたしはメイドと顔を合わせる。アメリの顔には「これから大丈夫か、心配です」そんなことが書かれているような気がした。



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