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乙女ゲーム内でのエレノア・フィツェーレとは王子と婚約を結んでいたものも破棄されてしまい、その後姿を消すという役どころであった。
あまり特徴的なことはせずに、ただ文句を垂れているだけのパッとしない役であったことを思い出す。
わたしは改めて鏡の前で落胆した。鏡には頭を抱えているエレノア・フィツェーレの幼少期姿が映り込んでいる。
憧れのヒロインになれなかった挙句、乙女ゲームすら始まっていない7歳児スタートだなんて……。早く17歳になって、イベントを迎えてそのままフェードアウトしてしまいたいわ。
エレノア・フィツェーレは処刑されたり、辛い目に遭うことはない。だからわたしの身には破滅フラグもなく、生ぬるいものであった。もうこのまま気楽に生きていけばいいのだ。
――そう考えれば、前世よりはずっといいかも。
前世の辛い過去は一切忘れることにしよう。その代わり、わたしは悪役令嬢の役割を捨て、影の薄い普通の女の子として、伸び伸びと生きていくんだわ!
そう考えると気分は幾らか上を向いた。
「まずはこのまま眠ってしまいましょ!わたしはもう普通の女の子なのだから」
そうベッドにダイブしようとした瞬間、メイドがドアをノックする音が聞こえた。
「カイン様がお待ちです。お嬢様」
げ。どうやら今のエレノアには待ち合わせの予定があったのらしい。面倒ったらありゃしないわ。
とりあえず、着替えよう。わたしはクローゼットを開けた。さすがは貴族。そこには幼少期にも関わらず大量のドレスが収納されていた。わたしは赤色のものを選んだ。何故ならエレノア・フィツェーレの瞳は燃えるようなルビーの色であるからだ。きっとこのドレスが1番似合う。
わたしは早速それを身に纏い、(途中メイドに助けてもらったが)外へと出かけていった。




