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 わたしは魔力の特訓に励んでいた。

 日中はとにかく、的に魔力を当てる特訓と手のひらに浮かべた渦を好きな形にできるように特訓を続けた。今のところ、丸に近い形――例えば林檎など――は形作れるが、お母様が作っていたと言っていたイルカなどの複雑な形はわたしにはまだ難しい。もしかしたら、わたし自身に備えつく魔力は特段多いわけではなさそうだ。悪役令嬢だからといって、魔力は凡人並であったのだ。


 それでも、わたしの辞書に「諦める」という言葉はなかった。自身の浮かべる目標の為に、今はひたすらに努力をするしかない。


 そして、夜になると暗闇に紛れて渦が見えにくくなることを踏まえ、夜は読書の時間にあてていた。今もろうそくの火と共に、本を読み進めている。


 それにしても、もう夜も遅いからそろそろ寝ようかしら。


 そう思いながら、あくびをしていたときだった。

ふと見た鏡に反射して、バルコニーに誰かいるのが見えたのだ。わたしは急いで、背後――バルコニーのある方向――を振り向いたが、人影は警戒したのか、急いで物陰に身を隠した。


 わたしはろうそくを持ちながら、おそるおそるバルコニーへと足を忍ばせた。バルコニーの鍵を外そうとしたところ、鍵は外側から開けられていた。音もなにも聞こえなかったというのに、一体いつの間に鍵を開けたのだろう。わたしは不思議に思いながらも、またおそるおそるバルコニーのドアを開けた。

 

 一歩、二歩、外へと歩く。気配を感じ、ドアの後ろ側をろうそくの光で照らす。


 そこには怯えた様子のひとりの少年がいた。


「あなた、誰なの」


 わたしはろうそくの光を近づけ、強い調子で問いただした。少年のみなりは高価な素材が使われていないことから、平民であることが分かる。階下の庭から、少年達の「逃げるぞ」、「行くぞ」という声から盗みに入ろうとしていたのだろうか。


 わたしは黙りこくる少年を頭の先からつま先まで順に眺めた。少年は真っ赤な髪の毛と橙色の瞳を持っていた。もしかして、この子は――?


「……ノア」

 少年はぼそっと呟いた。

 ノア。攻略キャラの最後の一人である。平民にもかかわらず、魔力は天才級で、魔力の使用に躓くヒロインを助けてあげる役割を担っていた。確か俺様系でありながら、真面目で不器用な子というギャップを楽しむ設定であった覚えがある。


 ノアは憔悴しきっていた。無理もない。これからわたしが叫んだりして、助けを求めれば、彼は警察に連行されてしまうのだから。


 わたしはバルコニーの鍵をろうそくの光で照らした。なんと、鍵の部分だけ器用に溶けていた。ノアは確か火の魔法の持ち主。しかも、魔法の天才。これは十中八九、彼がやったことだろう。


「ノア、わたしは通報しないわ」


 ノアは顔をあげた。戸惑いの表情が目に取れる。


「その代わり、わたしに魔法を教えてちょうだい。わたしには今、急成長する必要があるの。あなたが毎日ここに通って、魔法のコツを教えてくれれば、わたしは通報しないわ」


「そんな都合のいい話があるか」


 ノアは鼻でわたしを笑った。わたしは気にせず、そのまま話し続けた。


「あなた、魔力の天才でしょ。こんなに鍵を器用に溶かすだなんて、わたしたちくらいの年齢でとてもできる技じゃないわ」


「……」


「あなたがうんともすんとも言わないのなら、わたしがここで叫んでもいいのよ。わたしはそんな未来だって敵わない。ノア、あなたには選択肢はないわ」


 それを聞いたノアは面倒くさそうに頭を掻いた。


「……容赦ないな」

「えぇ、わたし悪役令嬢ですもの」


 ノアを見下ろしながら、わたしは満足げに微笑んだ。


「明日、ここに来ればいいのか」

「えぇ、次は日が昇っている時間に来てちょうだい」

「……わかった」


 そう言うと、ノアはバルコニーから飛び降りていった。


 こうして、わたしは魔法の師を手に入れた。

 今日はよく寝られそう。わたしはるんるんと弾む心のまま、バルコニーをあとにした。



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