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「エレノアお嬢様、カイン・ガーランド様のご訪問です」
ドアの外から聞こえたメイドの声にわたしは「はーい、今行くわ」と返事をし、椅子から離れた。
カインったら、わたしが今から練習しようとしていたのに、まったくタイミングが悪いんだから。来るなら来るで、もう少しあとにきてほしかったっわ。
若干の苛つきと共にわたしは応接間に移動した。
「あれ、なんかお邪魔しちゃった感じ?」
カインはそれを表情で察したのか、出会い頭そう言ってきた。用意されたマカロンを手に取りながら、こちらに視線を送っている。
「そうよ。今から魔法の練習をしようと思ってたのに、カインが来たせいで台無しだわ」
「そっか! それはごめん、ごめん。そういえば魔法使えるようになったんだってな」
貴族の噂話は速い。例外なく、カインまでもが、わたしがつい最近魔法を使えるようになったことを既に知っていたようだ。
「そうよ。あ、そういえばカインは何の魔法を使えるの?」
マカロンを頬張るカインにわたしはそう尋ねた。参考例は多ければ多いほどいいだろう。
「地の魔法だよ。植物を思い通りに成長させたり、土を操ったりって感じ。退屈ったらありゃしないよ」
カインはそう答えると、また一口マカロンを口に放った。
「それは逃げの考えよ。どんな魔法でも自分の扱い次第で理想の魔力へと変化するとわたしは思うわ」
カインにそう言いながらも、半分は自分へ宛てた言い分であった。与えられた自分の魔力は自分で好きなように磨くしかないのだ。
「ははっ。言われちゃったな。俺もエレノアみたいに頑張らなきゃな」
「でも、エレノアは良いよなぁ。闇の魔法なんてかっこいい魔法」
それを聞いたわたしは眉がぴくっと動いた。闇の魔法がいい? 一体どこを見てそう言っているのかしら。もしかしたら、ヒントがそこに隠れているのかもしれないわ。
「なぜそう思うの?」
わたしは紅茶を嗜みながら、なんとなしに聞いているような態度を装った。
「だって、攻撃力めっちゃ高いじゃん。魔法バトルするなら、闇の魔法が一番だよなぁ」
「なにそれ、わたしはバトルなんかしないわよ」
「いや、エレノアはしなくても、俺がしたいんだよ」
聞いて損した気分に陥る。誰かを傷つける為の魔法だなんて、絶対わたしは嫌だ。人のためになる魔力の使い方をしたいわ。
「でも、魔法で戦闘方法を学ぶのだって、案外大切だと思うよ。授業でも魔法バトルは取り扱うし、咄嗟の判断と魔法の反射神経が鍛えられる。それにほら、戦うのって何かを手に入れる時だけじゃなく、何かを守る為にすることもあるだろ? 鍛えておいて損はないと思うんだよなぁ」
「珍しく良いこと言うじゃない……」
わたしはカインの言葉をゆっくり咀嚼した。そうだ。わたしの正しさを貫く上で戦う必要性も出てくるかもしれない。例えば、ゲルン人が反乱を起こしたときとか。その時はぜひわたしも共に戦いたいわ。いざというときの保身の為にも、確かに鍛えておいて損はないはね。
「ありがとう、カイン。わたし暫く家で特訓してみるわ」
「おう。弱音吐きたくなったら、いつでも俺の家来な」
カインはぶっきらぼうにそう言ってみせた。そのあともわたしたちは暫く話せていなかった分、たんまりと雑談したのであった。




