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「魔力を使えるようになったですって! しかも闇の魔力!」
「これは将来有望だな。さすがはフィツェーレ家の人間だ」
家に帰宅し、魔力を披露すると、両親はひどく喜んでくれた。わたしは自身の部屋のベッドに寝転びながら、その様子を明確に思い出していた。
てっきり、悪役令嬢は皆に嫌われていると思い込んでいた。だから、こんなにもエレノアが両親から愛されているとは意外であった。
乙女ゲームのエレノアはなぜあんなにも悪役令嬢が板についていたのだろうか。たっぷり愛され、たっぷり甘やかされた為なのだろうか。わたしはてっきり、誰にも愛されなかったせいで、腐ってしまったのかと思っていた。まだまだわたしには知らないことが多すぎる。
一瞬、前世の両親の記憶が脳内によぎる。遺書も何も残さずに乙女ゲームの世界にわたしは転生してしまった。二人は元気に生活しているだろうか。
少しの悲しさに染まっていると、メイドがわたしの部屋に訪れた。
「エレノアお嬢様、ヘンリー王子のご訪問です」
「わかったわ、今向かう」
わたしはベッドから起き上がり、身だしなみを整え、応接間へと向かった。
「やぁ、魔力が使えるようになったと聞いたよ」
なぜ、こいつが知っているんだ。わたしは憎きヘンリーの双眸を鋭い視線で見つめた。わたしはヘンリー達があの日ルークにした仕打ちを忘れてはいない。
「なぜ、知っているのか。そんな顔をしているね。貴族のネットワークは素早いのだよ。エレノア、君も知っているだろ?」
長い足を組みながら、こちらを流し見るルークにわたしはふんと鼻を鳴らした。
「それで、なんの用かしら」
「そう硬くならないでくれよ。わたしたちは友達だろう? ただ祝福に来たんだよ。エレノアの魔術師への第一歩のね」
「そんなお祝いなど、いらないわ。わたしには当たり前のことですもの」
わたしはそう言い放つと、ヘンリーの向かいの席に座った。今日のヘンリーはいくらか上から目線で、意地が悪いように感じる。やはり、あの日の出来事がきっかけであるのだろうか。だとしたら、こちらも上等だわ。悪意を胸に隠しながら、にこにこと笑い合っているより、随分健康的な人付き合いだわ。
「それにしては、エレノアが一番遅かったけどね。まぁ、いい。わたしが言いたかったことは皮肉なんかじゃない」
ヘンリーは持っていたティーカップをテーブルに置いた。
「クロサリア魔法学園は知っているね?」
「ええ、もちろんよ」
実はうっすらとしか知らない。一日に読める本の量は限られているので、まだこの国の詳しいことは無知状態であった。
「エレノアは魔力を持った。つまり、十五才から学園に通うことができるということだ。わたしたちは学年が違うから、交流は少ないかもしれないけど、楽しみだね」
「ええ、そうね」
わたしはなんとはなしに返事をした。
――クロサリア魔法学園。そこで分かりやすく、良い結果を残せば、わたしの発言力は増すのではないか。エレノアが目指すべき悪役令嬢の道が一本にすっと伸びたように感じられた。
「じゃ、わたしはここでお暇するよ」
そう言い、ヘンリーは席を立った。そのまま部屋から出て行くと思いきや、彼は扉の前でくるっと周り、こちらを向いた。
「無知な君も可愛らしいね」
そう片方の口角を上げる。唐突に言われた驚きと怒りの感情で真っ赤になるわたしを置いて、ヘンリーは部屋をあとにした。




