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11 エレノア


クロサリアには魔法が存在する。魔法を扱える人間が少ない故に、魔法を扱える人間は魔術師として国に優遇されている。それは本来の貴族制度よりも優遇されており、実質優秀な魔術師は相応の身分が国王から与えられる。故に、自然と身分の高い貴族に優秀な魔術師が多く存在する。平民でありながら、権力を求める者は優秀な魔術師になるしか方法はない。


 エレノアは魔術師についての本を読んでいた。


 わたしが自身の正しさを貫く為には、まず力がいる。発言力がいる。そのためには、まず魔力を身に付けなければいけないらしいわ。


 エレノアはすぐに椅子から立ち上がり、その場で両手を前に出し、力をこめた。しかし、そこにはただ突っ立っているわたしがいるだけで、何の変化も訪れなかった。今のエレノアは魔力が使えないのだ。


 これはいけない。一刻も早く魔力を身に付けなければ。

 わたしはケープを羽織り、部屋から飛び出していった。


 馬車に乗り込み、訪れた先はルークの邸宅であった。


「ごきげんよう、急に押しかけて悪いわね」


「いいよ。勉強していただけだからね」


 ルークはそう言うと、優しく微笑んだ。


「そう、ならいいわ」


 わたしはそう言うと、用意されたお茶の席に座る。テーブルにはエレノアの大好物であるスコーンとマーマレードジャムが置かれていた。わたしは手を伸ばしたくなるのをぐっと我慢し、ルークに尋ねた。


「早速だけど、あなた魔力を持っているの?」


「うん、持っているよ」

 

 ルークは片手を差し出し、手のひらに小さな竜巻を作って見せた。わたしは思わず釘つけになってしまった。初めて見る魔法。とても神秘的で特別なものであることをわたしは思い知らされた。


「凄いわね。……わたし、実はまだ魔法を使えないの。その、コツとかあったら教えてくれない?」

 

 ルークとわたしは共犯者だ。別に、魔法が使えないことを告白するのは屈辱的なことではないし、恥ずかしいことでもない。わたしとルークは仲間なのだから、赤裸々に自分のことを語っても良いのだ。そう、全てはわたしの正しさを貫く為。その為には、周りに居るどんな人でも利用してやるのだ。


「いいよ」

 ルークは二つ返事で承諾すると、紅茶に口をつけ、語り始めた。


「魔力はね、感情と深い繋がりを持つんだ。だから、潜在する魔力を引き出すには強い感情を呼び起こす必要がある。幸せな記憶、嬉しい記憶、辛い記憶、悲しい記憶、全てがエレノアの魔力の糧になると思うよ。まずは自分自身に集中するんだ」


「わかった。記憶ね」

 わたしは頷くと、スコーンを指さした。


「これ、食べて良いかしら?」

「もちろん」


 わたしはスコーンに手を伸ばす。それを割って、マーマレードジャムを塗り、口の中へと誘った。わたしは目を閉じてそれを咀嚼し、ごくりと呑み込む。大好物の味にわたしはうっとりしながら、先程のルークのように片手を前に差し出した。

 美味しい記憶、幸せな記憶を呼び起こし、力を入れる。


 ……うっすら片目を開くと、そこには何もなかった。またもや失敗だ。


「簡単に諦めちゃ駄目だよ。何回でも挑戦するんだ。大丈夫、僕が見守っているよ」

「だ、誰が諦めたなんて言ったのよ。黙って見てなさい」


 ……なかなかに悪役令嬢っぽい台詞ではないか? 悪役令嬢が身に馴染んできたのだろうか。


 わたしはそう思いながらも、頭の中にある記憶を探した。

 あった。強烈な記憶。これは前世の物だ。ひどく後悔した記憶。


 悲痛な記憶とは二種類ある。一つは、一回ひどく傷つけられた記憶。二つ目は自分が犯した過ちにより、自身をひどく責め続ける記憶。わたしには一つ目の記憶がないせいか、二つ目の記憶がわたしにとっての悲痛な記憶であった。


 わたしはクラスメイトと共にある子を虐めてしまった。ひどく後悔している。周りの正しさに酔って、自分を見失ってしまった。その結果、彼女にひどいことをしてしまった。その罪悪感からわたしは駅のホームから身を投げたのだ。


 ふと、手のひらに冷たさを感じた。目を開けると、手のひらには漆黒の闇が渦巻いている。


「成功だね」

 ルークは穏やかに口開く。


「……しかも、これは闇の魔法だ」


 こうして、エレノアは闇の魔力を使えるようになったのだ。



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