10 カナリア
カナリアは鏡に映る自身を眺めていた。
改めてその美しさに自分で戸惑ってしまう。金髪は絹のように滑らかであるし、その瞳はエメラルドのように輝いていた。
「嘘みたい。わたしがこんなお姫様みたいになれたなんて」
カナリア自身も転生者であった。
カナリアの前世は悲痛なものであった。大勢に誹謗中傷を受け、毎日が悪口や嫌がらせで染まっていく。彼女は愛する乙女ゲームの悪役令嬢になることを夢見て、駅のホームへと身を投げた。
そう、彼女は悪役令嬢を望んでいたのだ。いつもハキハキと自論を述べ、周りはそれに何もいえずただ影響される。悪口や誹謗中傷など気にもしない図太い神経とタフな精神力。カナリアの前世は彼女に憧れていたのであった。
「このカナリアと魔力を使って、何ができるのか考えよう」
わたしは鏡に映る自身に向かってそう言った。カナリアはクロサリアにて光の魔力を使える唯一の人間であった。魔法の種類は水、火、地、風、闇、光に分かれていて、大体の人間が魔法すら使えない。使える人間も最初の4つの魔法の内どれかを使うことが多く、闇と光の魔力を使える人間はなかなかいない。そのためか、父が先の戦争で活躍したことも含め、ガーランド家の爵位は下級貴族から男爵まで上がっている。
本当は悪役令嬢になりたかった。誇らしい悪女にでもなってやりたかった。でもわたしは悪役令嬢になれなかった。これは天のお告げであるとわたしは思う。
わたしは善人であれ。と神様は願っているのだ。
だからわたしはカナリア・ガーランドの役目をしっかり果たす。乙女ゲームの選択肢通りの人生を送り、最終的には王子と結婚するのだ。
わたしの次の人生は、善人であること、正しくあることに費やす。そのためにはどんなに不可解な習わしも受け入れるわ。わたしはそう誓った。
わたしは善人として生き、カナリア・ガーランドのハッピーエンドを掴んでやるのだ。




