9.沈黙の丘『白日』
少年は夢を見る。
それは幼き日々の残照。新緑の季節を目前とした或る日の記憶。
少年はその日、父の亡骸を前にした。
刃に鳩尾を裂かれ、背中は血に濡れている。
腕に抱いた憧れが掠れ消えゆく様を、少年は見守る事しか出来なかったのだ。
『強く在れ。正しく在れ』
憧れはいつか、少年の頭を撫でながらそう言った。
それは少年の内に強く、深く刻み込まれ、彼の生き方を決定した。
強く、強く、強く。正しく在る為に。
少年は無心で駆けた。
不要な物を排し、必要のみを求めた。
果てに、辿り着く。
それは屍山血河。白日に曝された惨劇の舞台。
慟哭が胸の奥深くから響き、全身を震わせる。
朱色の水辺に浸された半身、土色の肉片が手足に纏わり付く。
振り払う、纏わり付く。蹴り飛ばす、纏わり付く。手を伸ばす、纏わり付く。
それらは少年を追い立てるように、決して逃すまいと意思を持つかの如く何処までも、何処までも纏わり付く。
跪いて、叫ぶ。
「 」
叫ぶ。
「 」
何度も、何度も叫ぶ。
その声が音となる事は無かった。
それは夢。少年の夢。誰かの夢の中、地続きの悪夢。
永遠に続くとも思えた時の狭間で、少年はいつまでも叫び続けた。
「 」
「 」
「 」




