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真夏の星人たち  作者: 関谷光太郎
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第七話

第七話、よろしくお願い致します。

 不調のメインエンジンを全開にして、宇宙船『タプラズ』は、その巨体を次元断層へとねじ込んでいく。


 その結果、再び星々を巡る力を失ってしまうことになろうとも、女性船長の決断は揺るぎなかった。


「案の定、次元粒子機関の70%が沈黙。生存に必要なエネルギー供給分だけ残して、故郷へ帰る能力は失っちまったよ」


 彼らがやってきたのは昭和三十五年、夏の日本。


 異文明との接触を考慮した次元干渉システムは、その地の文明を身近で観察するため、次元粒子機関との連動で機能する。残った30%のエネルギー供給にすべてがかかっていた。


 さらに、次元の揺るぎによって時折迷い込んでくる異文明人の牽制用として準備された機能があった。


 間借りした生活圏と正体をカモフラージュするそのシステムを、エジュラの民は『印象波』と呼んだ。


『印象波』は星人たちが降り立った時の光景をそのままトレースすることで昭和三十五年の街並みと人の姿を生み出していたのだ。だから大家の姿は、立体で創り出された地球人の映像を電磁的にまとっているのだという。


 柿沼と栗山には突拍子もない話でおいてけぼり状態だが、共感できる心情もあった。


 それは、昭和三十五年の永遠の夏である理由だ。その光景を見た星人たちがいたく気にいってこのままにしている、という単純な理由なのだが、これは彼ら星人たちが情緒を理解していることを示しているようで、悪い気がしない。


 互いに理解可能であることの証左だと柿沼と栗山は感じた。


「あっという間の六十年。このままいってくれりゃいいものを、あたしが下した判断に天はまたもやそっぽを向いた」


「母星からの救助は期待できなかったのですか?」


 柿沼の質問に大家の表情が曇った。


「30パーセントのエネルギー供給じゃ、母星への通信もままならないのさ」


 力なく笑った大家おおいえは、視線を研究棟廊下の奥へと向けた。どこまで続いているのか、研究棟の廊下の奥は靄がかかっている。


 佇む姿が、向こうからやってくる誰かを待っているようだった。


 柿沼と栗山が身構える。


「船長、困るじゃないか!」


 そう言って霞から現れたのは白衣の男だった。痩せぎすで顔色が青い。妙に長い手足をばたつかせて大家の前にたどり着く。


「相変わらず不健康そうだな」


 大家が言った。


「たまには陽に当たれ。食事もキチンと取ってな」


「おおきなお世話だ。それよりこれはなんだ? 外から迷い込んだ連中をご親切にも中へ通すなんて。船長としての責務を忘れたか!」


「この二人は警察の人間だよ。この国の掟を守る者だ」


「ふん。ここは次元の狭間にある世界だぞ。連中の掟は通用するもんか」


「本気で言ってるのか?」


 白衣の男は一瞬困惑したようだが、すぐにふてぶてしさを取り戻すと、ふたりの刑事に詰め寄った。


「ここで見聞きしたことは忘れろ。できなきゃ、二度とあっちの世界には戻れない」


「ほお、戻れないとは……」


 柿沼が言った。


「あなたは、我々警察を脅すんですか?」


「脅しじゃない。これは命令だ」


 ふざけんな、と呟いて栗山が掴みかかる。それを制した柿沼が冷静に問いかけた。


「あんたが、科学技術長だったセ・ドゥの息子だな。父親亡き後、故郷へ帰る希望を繋いだと大家さんから聞いている」


「おいおい。このふたりにどんなシンパシーを感じれば、船長はそんなにお喋りになれるんだ?」


「……掟だよ。我らエジュラの民は、人の不幸の上に幸せを作ってはならないという」


「掟、掟……あんたのその判断が、大事なエンジンを犠牲にしてみなを故郷へ帰れなくしたんだぞ!」


 大家が拳を握る。


「いいか!」


 白衣の男が言った。


「時間がないんだ。この次元を維持出来る期間は約半年。次元粒子機関の質力低下が著しい中で、あと四百名もの仲間を地球人の体に変換しなければならない」


「変換だと?」


「地球人の体って……!」


 柿沼と栗山が唖然とする。


 白衣の男が残忍な笑顔を浮かべた。


「人呼んで『ボディ・スイッチャー』。あんたらの肉体をいただくための装置だよ」


 そう言うと、男は白衣の懐から缶スプレーを取りだしてノズルを向けてきた。


 目の前が真っ白になる。


 異臭とともにふたりの刑事は意識を失ってしまったのだ。


つづき、よろしくお願い致します。

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