第十四話
第十四話、よろしくお願い致します。
柿沼と栗山が走る。
誰一人、エジュラの追手はやって来ない。少女レビ・ガノと教授が全力で裏切り者たちの動きを止めてくれているのだ。
町も静かだ。
もしかすると、大家であり船長でもあるガ・バウが影響力を発揮しているのかもしれない。
ともかくふたりは、停めていた車へと戻るとエンジンをかける。栗山が、ここへ来た時にはあった三輪トラックの姿がないことに気がついた。
「あの三人組、誘拐だけでなくテロまで引き受けているんですね」
「人手不足なんだろう。さ、急ぐぞ!」
すると、行く手を遮るように一人の若い男が現れた。笑顔で片手をあげながら、柿沼の座る助手席へと駆けよってくる。
訝しみながらパワーウィンドウを下ろした柿沼へ男が言った。
「船長からの届け物です」
柿沼の手にスマホ大の機械が渡される。
「エジュラ星の追跡装置です。我々エジュラの民には生まれながらにして認証チップが埋め込まれているので、これで実行犯の行先がわかります。今は装置の画面は真っ暗ですが、この次元断層を抜ければすぐさま座標が表示され、実行犯の動きが赤い光点で示されます」
さらにいくつか操作上の説明をした男は「ご武運を!」と言って車を離れた。
「ありがとう。さあ、行くぞ、栗山!」
栗山がアクセルを踏んだ。
一気に加速した車体は、一瞬の衝撃音とともに、次元の狭間を抜け出した。
ひんやりとした空気がふたりの刑事を現実に引き戻す。あの暑い夏の日が嘘のようだ。そうだ、自分たちの世界は晩秋を迎えていたのだ。
「おい、反応があったぞ!」
柿沼の手の中で機械の画面が光を放った。座標の上に赤い光点。光点はまだ移動中である。そして青い光点が表示された。これは刑事たちの車を示している。右上の数字は距離。その数値は、船長の配慮でエジュラ式から日本の距離表示に変換されているのだ。
「連中はまだ移動中だ。この方向では市街地を目指している」
「その感じだと東京都心ってところすね」
「ああ、悪の組織のパターンはいつもそんなもんだよ」
「柿沼さん、それなんの話ですか?」
そう言いながら栗山は通信機に手をかけた。
「通信はダメだ。説明が面倒臭いからな」
「でも、細菌兵器ですよ。俺らだけで処理しきれるもんじゃないでしょう」
「するんだよ。お前、宇宙人の話を上が信じると思うか? 俺たちエジュラ星人の町にいたんですよ、なんて話せるか?」
「そ、それは……」
「とにかく、誰にも気づかれずに事を処理するんだ。それしか方法はない」
栗山はしばらく沈黙した後、おもむろに警告灯を車の屋根に取り付けた。
「サイレンくらいは大丈夫でしょう? 相手がいくら遅い車両でもこの距離を詰めるにはこれしかないですからね」
「おお、行け!」
サイレンを響かせて車はさらに加速した。
夏の町から秋の町へ。その寒暖差は身にこたえそうなものだが、今の刑事たちには細菌兵器への恐怖でいっぱいで温度差など感じている暇はない。柿沼は手の中の追跡装置に首っきりだし、栗山は最新の注意を払って車の操作に集中している。
レーシングカー並のスピードであっという間に市街地に入った車は、対象者との距離をどんどん詰めていき、栗山の運転技術の高さを見せつけていた。
画面に集中した柿沼が気分を悪くする。
「柿沼さん、あんまり画面を見すぎていると車酔いしますよ!」
「わ、わかってるさ。それにしてもお前、仕事を間違えたんじゃないか? レーサーにでもなりゃよかったのに」
「なに言ってるんですか。俺の適職は警察官です!」
車の加速が止まらない。乗車している柿沼の気分よりも、周囲の人々の反応の方が深刻である。
追い抜かれる車の運転手が目玉を剥いて驚いていたり、通行人の表情には、警察車両のあまりの暴走状態に恐怖で逃げ出している光景もあった。
これは膨大な始末書が必要になるだろうな。
そう覚悟した柿沼の耳に栗山の声が響いた。
「見つけたぁ!」
前方に見覚えのある三輪トラックの姿が。相変わらず煙を吐きながらゆったりと走行していた。そこに日本を全滅させるだけの細菌兵器が搭載されているとは想像もできないだろう。
「よし、そのまま加速して前へ出よう!」
「おやすいごようで!」
栗山がハンドルを切って右側から追いこもうとした瞬間、三輪トラックが急ブレーキをかけたのだ。
「危ない!」
トラックの後部が目の前に迫った。
つづき、よろしくお願い致します。




