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真夏の星人たち  作者: 関谷光太郎
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第十二話

第十二話、よろしくお願い致します。

 仁王立ちする大家おおいえ


 血まみれの白の割烹着がボロ布のように身体にへばりつき、紺色のモンペがズタズタに引き裂かれていた。


「セ・ダォ! あたしの堪忍袋も限界だよ!」


 彼女が両手に掲げた巨大な筒は、エジュラの機関銃だと思われる。それを軽く振り回して、セ・ダォに迫る大家の形相は、鬼そのものだった。


「ちょっと待て、大家! なにがあったんだ?」


「教授。これは謀反だ! 同胞の危機が迫る中で他者の存在を顧みず、自らの存亡のみを考えた計画が進行中なんだ!」


 なんの話しかと、教授とレビ・ガノが顔を見合わせる。


「ボディ・スナッチ計画はダミーだ。本当の計画は秘密裏に進められ、あたしらの知らない別働隊が動いている。いまの今まであたしはそいつらに監禁されていたというわけさ!」


「侵略に舵を切ったというのか?」


 教授の疑問に答える代わりに、大家は銃口をセ・ダォに向けた。


「それは、この天才科学者さまから聞くのが一番だよ。さあ、説明してみなセ・ドゥの息子よ。誠実な父の名において偽りなき真実を話すんだ!」


 この部屋に居るすべての視線がセ・ダォに集中する。地球人側である柿沼、栗山たちも息を呑んで見守った。


「それだよ………それ。なにかと言うとセ・ドゥの息子、息子と呼ばれ過度の期待をされる。少しは期待される側の身にもなって欲しいよな」


「能書きはいいんだ。本題に入りな! お前らはなにをしようとしている!」


 大家は、セ・ダォの額に銃口を押し当てた。


「決まっているだろ」


 セ・ダォの目は挑戦的だった。


「同胞を確実に守るための唯一の方法だ。武力行使よりも効率的で迅速。もう次元崩壊を恐れる必要がなくなる」


「その方法とは、なんだ?」


 教授が言った。


 セ・ダォが躊躇している。肝心な部分を語る段になって大きな壁が立ち塞がったようだった。


 大家が機関銃をぶるんとひと振りすると、安全装置が解除された。起動した弾倉ドラムが唸りをあげて高速回転し、弾の装填が完了する。


「その沈黙は、 罪悪感に苛まれてか、それとも時間を稼いでいるのかどっちだ! いいか、これが最後の警告だ。性根が腐ってないなら自分で真実を告げろ! そして心に巣食う闇をはらえ!」


 セ・ダォの額から逸れて、天井に向けられた銃口が火を吹いた。上から落ちてくる破片にまみれて、大家の目に涙が浮かぶ。


「……細菌兵器の使用だ」


 絞り出すようなセ・ダォの言葉。


「これはエジュラ星人にとっては無害だが、地球人には即死を免れない猛毒性の新種の細菌なんだ」


「なんだよそれ!」


 栗山が言った。


「そんな都合のいい細菌なんて、すぐに処分するべきだろ、大家さん!」


「船長と呼びな!」


 大家が吠える。


「ここからは大家じゃなく、ガ・バウ船長として振る舞うからね! 教授、レビ・ガノ、町に緊急事態を宣言するよ。この最悪の細菌を持ち出して、この地球にバラまこうとしている奴らがいる!」


「ふざけんじゃねぇ!」


「落ち着け、栗山!」


 大家こと、ガ・バウ船長が柿沼と栗山に歩み寄った。


「ご覧の通り、あんたらに関わっている暇がなくなった。悪いが事態が収まるまでこのまま拘束させてもらう」


「それは困る!」


 柿沼が訴えた。


「細菌兵器なんて穏やかでないものを放っておけるか。われわれは戻って国民を守らねばならない!」


「心配するな。それはあたしたちでやる。言ったろう。エジュラの民は人の不幸の上に幸せは築かないと」


 ギギ、ギギギギギギギギ!


 セ・ダォが笑った。あの耳を塞ぎたくなるような嫌な音である。


 ガ・バウ船長は、表情を歪める二人の刑事に哀れみの視線を残して天才科学者を振り返った。


「なにを笑う、セ・ダォ」


「綺麗ごとで同胞は救えない。いいかい船長。あんたは自分の崇拝する理想のために、この滅びを受け入れようとしているんだ」


「……なに勝手なことを」


「はっきり言えばいい。この惑星の先住民のために、我らは次元断層の崩壊とともに消える方がいい……ってな」

つづき、よろしくお願い致します。

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