女子中学生は異世界で10年ムンジャム・ンペンベ
タイトルネタ。大して膨らまなかったので1話のみ
このころは久住って名字を使いたかったようです
久住よし子、27才。
我ながら古くさい名前だと思うけど、若くして亡くなった伯母さんの名前らしい。
仲間からは親愛の感情を込めてクズ子って呼ばれてる。たぶんイジメじゃない。
職業はムンジャム・ンペンベ……日本語にしたら『冒険者』という訳語が近いかもしれない。
冒険者とは言え、未開の地を冒険したりするわけではない。ファンタジー作品でよくある組合に登録して依頼をこなす……まあ、要するに何でも屋だ。
私は何というか、転移者って言うのかね?
14(中2だ!)才の時にゾルバゲス王国って悪そうな名前の国に召喚されちゃって(別に悪くはない。ゾルバゲスとは『豊かな川』みたいなニュアンスの言葉である)。
何やかんやで社会勉強も兼ねた訓練を受けて魔王? みたいな……うーん、こっちの言葉でチンモラビスタって言うんだけど、とにかくモンスターの親玉みたいなヤツと戦ったわけだ。
もう言葉はややこしいから、ここからは私が適当に翻訳してると考えてほしい。
ちょっと機械があるファンタジー世界をイメージしてもらうと大外れはしないと思う。
この世界には万能とは言いがたいが魔法もある。
お約束というか、召喚された私には魔力とか言う不思議パワーがあって「はあーっ!」みたいに気合いを入れると何かよく分からんが強い。
いや、中学中退の私には魔力の説明とかできないからね。不思議なパワーなんだから仕方ないね。
私のパワーときたら立ち木は引っこ抜くし、念動力で物は飛ばせるし、空は飛べるし、目からビームは出るし、とにかく強いってことで勇者っぽいお姫さまのお供に加わり魔王と戦ってやっつけた。
まあ、それはそれでいい。
2年がかりの結構な旅だったが、過去の話だ。詳細は省く。
魔王を倒した後、お姫さまは婚約者をさしおいて仲間のイケメン盗賊と駆け落ちしたりワチャワチャしたが、おおむねハッピーエンドだ……私を除いて。
日本に帰れないのだ。
いろんな儀式を試したがピクリともしない。
これには王国の偉い人たちも頭を抱えてしまった。
外国人どころか異世界人の私を公務員にするわけにもいかず、かと言って放り出すのも外聞が悪い。他の国にヘッドハンティングされるのも困る。
適当な貴族と結婚させようにも好みはうるさいし(当たり前だ)言葉も不自由ときた。
そんなこんなでもて余された結果1年ほどたらい回しにされ、最終的には結構な年金を貰いながら半官半民の冒険者ギルドに所属することになった。
年金額は家賃と食費を払っても余るくらいだ。簡単な投資もしてるし、生活に不自由はない。
以来10年余。
もともと私の能力が冒険者向きだったのもあり、特に不安はない生活を送っている。
おかげで現地語もペラペラだ。
「はいはい、納品だよっと」
試験管のようなガラス瓶が入った木箱をガチャガチャとカウンターに置いていく。
ここは王都の冒険者ギルド。私は依頼された医薬品の納品に来たわけだ。
薬師ギルドからポーションを受け取り、冒険者ギルドに配達する。
本来はこんなお使いクエストは誰もやりたがらない。儲けが少ないし、事故などで欠品すれば弁償になる場合もあるからだ。
だけどまあ、私はお金には困ってないし、最悪ポーションくらいなら自分で精製できる(薬師ギルドを通さない製薬は違法だけど)。
だからこうしてやり手のない依頼なんかをこなしているわけだ。
「クズ子さん、いつもお疲れ様です。検品しますので少々お待ちください」
「あいよ。ちょい早いけど昼食後に顔出すわ」
看板受付嬢のイェシカから木製の受付札を受け取り街に出る。
季節は秋。やや肌寒い風が吹いた。
ゾルバゲスの気候は日本……私が住んでいた名古屋よりも寒い。
正直、まだ帰りたい気持ちはある。
でも今の私の感覚はゾルバゲス王国の庶民に近くなっているし、帰れたとしても平成(注意※クズ子は令和になったことを知りません)の日本では生きていけないだろう。
中学校もロクに行ってない私がマトモに就職できるとは思えない。
怪力とか、目からビームが日本で使えるかも分からないし。
だから色々あきらめて、こうして冒険者として生きている。
これが私の日常。
不満はないことはないけど、まあ幸せな部類だ。
「さて、昼は軽く済ませて飲みにでも行くかなあ」
私はぼんやりと王都の商店街を歩き出した。
遺跡でメカ(ゴーレム?)女子を見つけて女性二人でわちゃわちゃ冒険する話でしたが、やたらハードボイルドになって断念しました。