奴隷王チブヤ 3
戦いが終わると逃亡防止のためか、すぐに奴隷は集められる。
モタモタしてると殴られるから略奪はスピードが命だ。
ま、俺やジジイくらいになると交換する余裕まであるから、これは問題ない。
入れ代わりで軍にくっついてる奴隷商人ポイのが倒れてる人をチェックしていく。
怪我が浅いヤツらなど、奴隷になりそうな負傷者を回収するのだ。
俺がヤラれたのも、ああした業者だったのかもしれない。
「次……良し! 次……良し!」
列になり、戦闘に加わった奴隷の生死が確認されていく。
俺の番が来て「次」と雑に呼ばれる。
「シブヤ、ケガない。これ銭」
「チブヤだな、良し!」
これだけである。
自由までにどれくらいの金額が必要なのか、それすらも分からん。
たぶんネコババされてる。
まあ、それはいい。
問題は『良し』と判断されなかった負傷者だ。
負傷者といっても片手や片目がなくなっても動けりゃ『良し』だからガバガバだけど、致命傷を負ったヤツは馬のエサにされる。
いや、馬じゃないのかな?
とにかく馬っぽい肉食獣がいて、そいつに食われるわけだ。
ちなみに騎兵はイメージみたいに走って速度と質量でダメージを与えるんじゃなくて、上に乗ったヤツと肉食獣がタッグ組んで乱戦で暴れるだけだな。
いや、かなり強いけど。
「さっきの戦いはラクだったな」
「勝つ、良いこと」
顔見知りの奴隷が声をかけてきた。
背の高い俺は目立つらしく、こうして話しかけてくれるヤツらのおかげで言葉を覚えたのだ。
「前回は負けだったろ。あの時に武器を失くしたのが痛かったぜ」
「俺の兜、新しくなった。嬉しい。前失くした、痛かった」
雑談をしながら飯の列に並ぶ。
実際、負け戦だと少しでも身軽になってひたすら走るしかない。
俺も盾と棒以外は全部捨てて逃げた。
ちなみに、負け戦のドサクサで逃げる奴隷もいるにはいる。
だが、ジジイいわく『やめとけ、のたれ死ぬぞ』とのことで俺は実行してない。
飼い主とのトラブルを覚悟してまで逃亡奴隷を匿うような奴隷愛好者はいないわけだ。
坊主頭は目立つし、髪が生えそろうまで逃亡はたしかにキツいよな。
あと、逃亡奴隷まるだしの格好じゃマズいから服も調達する必要あるし、ハードルは高い。
飯の列も俺の順番が来て「おらよっ」と雑に皿と堅焼きビスケットが渡された。
この飯がまたヒドいのだ。
カビた干し肉とか、湿気った乾燥豆とか、ビスケットの破片とかを適当に煮込んでドロドロになったスープ。
たぶんこれ残飯だろうな。
コイツが冷めきっていてゲロ以下の味わいだ……まあ、食うけど。
そして堅焼きビスケットには虫が湧いてる。
デケえウジ虫みたいなヤツだ。
腐肉(何の肉かは聞かないほうが良いかも)のそばに近づけとけば移るらしいが、放置しとくと他の奴隷に食われてしまう。
だから適当に指ではじいてプチプチと食べるのが正解だ。
たまにカピカピの何かよく分からない植物の干物もついてくる。
本当にカッチカチなので犬のガムみたいにシガシガ噛み続けるのだが、今回はない。
名前が分からないから『噛み棒』って俺は呼んでる。
水は適当に濁った水の入った樽から飲む。
表面はいろいろ浮いてるし、底は砂が溜まってる。
自分の器で中ほどを汲むのがベテランの技だ。
ぶっちゃけ、免疫弱いやつはコロッと死ぬと思う。
まあ、戦いで死ぬのとどちらがマシかは分からんけどね。
「へへ……チブヤ、次も頼むぞ」
「助かったぜ、これは礼だ」
何人かの顔なじみが俺にウジ虫ビスケットをくれた。
最近は死にたくないからって俺の近くで戦う要領のいいヤツらが増えたのだ。
俺も味方が固まっていれば助かる部分もあるので放置してる。
「移動だ! さっさとしろ!」
ダラダラして身を休めていると移動指示があった。
俺達は本当に何も持っていないが、軍の物資を担いで移動するため移動はキツい。
「……食い物とか運ばしてくれたらトンズラすんのにな」
「悪いこと、言うな。それは、考えるだけ」
顔見知りの1人がきわどいことを言うのでたしなめた。
つまらない愚痴でも兵隊らに聞かれたらムチで殴られる。
コイツが殴られるのは一向にかまわないが、聞いていたってだけで俺まで殴られるのは御免だ。
(しかし、逃亡か)
このクソみたいな生活からの脱出を考えない日はない。
たしかに髪が生えそろうまで……2ヶ月ぶんくらいの食料があれば、逃亡は可能だ。
ぼんやりと考えながら、集団と共に荒野を歩く。
この世界の風は、やたらに乾燥していた。
まだまだありますが、とりあえずここまで。
おもしろさが分かんなくなってしまったんですよね。