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奴隷王チブヤ 2

日本人の俺が、こんなイカれた世界にいる理由は分からない。

ある日、気がついたら見知らぬ土地にいた。


本当にいきなりいたんだ。

直前までテレワークでWEB会議をしていたため上がワイシャツとネクタイ、下がジャージとスリッパだった。

その姿のまま、見たこともない砂漠のように乾いた土地に立ってたんだ。


何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が起きたのかサッパリ分からなかった。

頭がどうにかなりそうだった……と、いうか、イカれちまったのかもしれない。


見たこともない景色、舗装されていない道、外国人――そう、ここは言葉が全く通じないんだ。


とりあえず人の多い場所へ出たのはいいが、もちろん日本円もクレジットカードも使えない。

言葉が通じない無一文、城壁の中に入ることもできなかった。

どうやら入るのは金が必要みたいだが、まあそれはいい。


どうしようもないのでポツンと立っていたら衛兵(警察官みたいなもんだ)に殴られて追い散らされた。最悪だ。


しかも、違う土地に行こうと空きっ腹で歩いていると見知らぬ男たちに囲まれ、気絶するまで棒でボコボコに殴られた。


そんで気がついたら全裸でセリにかけられてたんだな。

そう、人身売買だ。完全にイカれてやがる。


そうして、体格が良かった俺は戦奴隷になり、素っ裸で戦場に放り込まれた。

頭をつるつるに剃られて逃げようとしてもすぐに見つかる。

坊主頭は奴隷の証だ。


この土地では逃げた奴隷は指を斬られたり、ムチでしこたま殴られる。

逃げることもできず、フルチンで戦場に立った時は変な笑いがこみ上げてきたな。


初めは運がよかったのだろう。

ヒイヒイ言いながら走り回っていたら生き延びた。


そこで武器を拾って、死体からボロい服を剥いで、戦って……。

いつしか、24才だった俺は25才になり、1年以上を戦場で過ごしていた。


これはどうも異世界ってヤツかタイムスリップだ。

現実を受け入れるのに時間がかかったが、こればかりは仕方ないだろう。

ワケも分からずに奴隷にされたんだ。

悪夢だと言われたほうが納得がいく。


こんなクソみたいな世界で俺が生きのびたのは理由がある。

1つ目は、単純に体がデカかった。


俺は身長178センチ81キロ(たぶん今は体重かなり減っていると思う)。

日本人としては平均よりやや大きめ程度のサイズだが、こっちの世界では事情が違う。

こちらの人間は小さいのだ。


男で160センチあるやなしや。

栄養状態の問題か、奴隷だともっと小さくてヒョロい。

俺くらいの体格だと頭1つは抜けた大男だ。

この体格でビビらず武器を振り回せば意外となんとかなる。


そして、2つ目は才能だ。

自分で言うのもなんだけど、俺は戦いの……殺しの才能があったらしい。


もちろん、日本で殺しなんて未経験だし、ストリートファイトなんてやるタイプじゃなかった。

だけど、理屈じゃないんだ。


俺は奴隷が使い捨てにされる戦場にすぐに慣れ、敵を殺せるようになった。

死体から武具どころか血まみれの携帯食料を剥ぎ取り、腹を満たすこともできる。


完全にサイコ野郎だ。


戦奴隷の労働環境はクソの一言。

戦う前だけは飯が多めにでるが、それでも俺には足りない。

血まみれの堅焼きビスケットや干し肉だって生きるためには口に入れなきゃいけないんだ。


奴隷は死ねばそこまで、いつの間にか補充されてる。


軍なのかな? この団体の1割くらいは奴隷だが、偉そうなヤツらの世話をする奴隷以外は最前列に出て矢避けの囮みたいな使われ方だ。


たくさん顔見知りが死んだし、新入りもすぐに死ぬ。

メンタルがやられるので、最近は新入りには話しかけないことにしている。


()ブヤ! いい兜だな! なんか交換するもんあるか?」

「靴、ある。サイズが俺と違う」


年のいった戦奴隷が声をかけてきた。

顔中傷だらけ、前歯も折れた凄え顔だ。

だけど、他の奴隷とは明らかに雰囲気がちがう。

装備も統一感はないが傭兵並みにしっかりしている。


生きのびた3つ目の理由はこのジジイだ。

名前も知らない、経歴も知らない。

だが、何度か生き延びた俺に戦場のテクニックを教えくれ、今では戦利品を融通しあう仲だ。


「お前さんは体がデカいからな。こっちはこの鎖がなかなか良いが、肩から巻いて防具にしたらどうだ? 靴と剣くれ」

「それ良い。靴と剣やる。鎖くれ」


俺も1年いればこのくらい会話はできる。


奴隷は身の回りのもの以外は持ち運べないし、交換はケチるもんじゃない。

こうしたノウハウもジジイから教わった。


角の鉄兜を被り、ボロきれの上から肩と腹に鎖を巻くと、なんだか心強い気がする。

鎖には不思議な形の金具があり、それを引っ掛けるとうまく固定できるようだ。


「銭はあったか?」

「……少しあった」


ジジイが俺の手元をのぞき込み「ま、そんなもんだろ」と苦笑いした。

奴隷は戦利品……この場合は現金だが、これを一定額納めたら自由になれるらしい。

だが、ベテランのジジイがまだ戦奴隷やっているのだ。

期待はできないだろうな。


そもそも戦場しか知らない俺には、この11枚の大小銅貨の価値も分からない。


「なんにせよ、また生きのびたな。それが大事さ、チブヤよ」

「そうか。ジジイが言うなら、そうなんだろ」


俺が素直に頷くと、ジジイはニカッと折れた前歯をむき出しにした。


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