第九話
「お前さんに狩って貰いたい魔物がおるんじゃ。」
立ち話もアレなんで俺はじいさんを部屋に入れてやった。
「狩って貰いたい魔物?」
ランプの光に照らされたじいさんの顔が怪しげに映る。
「その羽に雷の如き電撃を纏う幻の雷鳥、その名もサンダーバード。お主にはそれを狩って貰いたい。」
サンダーバードだとっ。ゲームでも割とお馴染みの魔物だが、雑魚として登場することはあまりない。それなりの強さを持って登場するというのが俺の中の常識である。
「一つ聞くがそいつはどのくらい強いのか?」
恐る恐る俺は尋ねる。
「今のお前さんではギリギリ勝てるかどうかというところかの。2等級上の冒険者でも手こずるレベルじゃからの。」
「いや、だったら俺よりもっと強い奴に頼めよ。その方が確実だろ。」
「それはできない相談じゃ。」
じいさんは即答した。
「何でだよ。」
ゴホンとじいさんは咳払いをした。
「それお主には、他の冒険者にはないものがあるからじゃ。」
「他の冒険者には無いもの?」
俺は思わず身を乗り出した。
「そう、それはとんでもない執念じゃ。いや、物欲といってもいい。自分の欲しいと思ったものを何としてでも手に入れようとするその執念。お主、相当苦労して凝血石を手に入れたようじゃな。普通の奴なら諦めるほどの確率なのにようやったわ。」
「ま、まあな。」
「その執念を見込んでの頼みじゃ。」
「なるほどな。じゃあサンダーバードもレアアイテムを持ってるのか?」
「いや、そういうわけではない。儂が欲しいのは奴の帯電した羽じゃ。タイミング良く倒せさえすれば簡単に手に入る。じゃが、そもそも出会うことが難しい。」
出現率自体が極端に低いのか。
「それは厄介だな。」
「何しろ幻の鳥じゃからのう。噂ではこの街を出て北に行ったところにある雷崩山という山の中に住んでいるらしいが。見たという人間が十年に一人いるかどうかというレベルなんじゃ。」
マジかよ。まあこういう時こそレミィの呪いが役立つかも知れない。
「分かった。やってみるよ。で、羽を取ったら渡せばいいのか?」
「おおっ。やってくれるか。助かるのう。」
じいさんは分かりやすいほど喜んだ。
「でもその羽を何に使うんだ?」
「武器を作るんじゃ。強力な雷の力を宿したサンダーバードの羽があれば、とんでもない武器が作れるじゃろうからの。儂はこう見えても鍛冶屋なんじゃ。この道何十年と働いておるが普通の武器や防具を作るのには飽き飽きしてしまってのう。それで希少な素材を使ってとんでもない武器や防具を作ろうと思ったのじゃ。」
じいさんは目を輝かせた。
「なるほどな。そりゃできるのが楽しみだぜ。」
「ああ、できたらお主にやろう。ちなみに報酬は10万ラピス。」
「マジかよ。」
「武器は使ってこそなんぼじゃからの。それにこれから希少な素材を色々集めて貰うかもしれんからの。餞別じゃ。」
「うおおおおおおっ。俄然やる気が出たぜーっ。絶対に取ってきてやるからな。待ってろよじいさん。」
大金に加えて強力な武器が手に入るなど願ってもない話だ。
「ふぉふぉふぉ。この話は他の者には秘密じゃよ。」
「もちろんだぜ。」
うまい話には裏がある。俺はこの後依頼を受けたことを後悔する羽目になるのだった。