第八話
次の日俺とレミィは朝から眠れる子鹿亭へ行き、できそうな依頼を片っ端から引き受けていった。
薬草取りや下水道掃除、チラシ配り・・・etc
冒険者の仕事は何も魔物退治だけではない。街の人の要望に応えるのも冒険者の役目だそうだ。
ギルドは今日も住人から多くの依頼が寄せられている。
薬草取りの仕事は楽だから似たような仕事を立て続けに引き受け、こなした。
レミィからよく飽きないですねと言われたが、なんのことはない。普段から単純作業ばかりを繰り返している俺にはこのくらいのことは苦には感じない。レアアイテム集めという苦行のおかげで精神が鍛えられているからな。
この手の仕事はいい。魔物と戦わない分リスクが低いから安全に稼げる。
とはいえリスクを避けてばかりではいられない。俺は魔物と戦う依頼も意図的に選んでいた。
そうしないと強くなれないからというのもあるが、理由はそれだけではない。
受付嬢のシャーリーさんの話によると、ランクが上がるには強さ、実績、名声という三つの条件があるという。
強さと実績は言わずもがなだが、名声とはつまり評判のことである。
ある程度の強さと数々の依頼をこなした実績、そして周囲からの支持があると認められればランクを上げるとのこと。
まあ依頼をこなしつつ鍛えていけば順当にランクは上がっていくだろう。
今日は昼からポイズンワスプという毒を持った巨大な蜂のような魔物を退治した。
名前の通り毒があるから危険だが、何とかなった。レミィも何匹か狩った。昆虫型の魔物はそれほど強いものはいないらしいがそれでも低ランクの冒険者だと気を抜けば死ぬこともあるらしい。しかも弱い分繁殖力は高く、頻繁に発生するという。恐ろしい世界だ。
虫ということは炎が弱点だろうから炎魔法で一気に燃やしてやりたいところだが、生憎俺もレミィも炎魔法は使えない。
レミィはともかくなんで俺は魔法を覚えないんだよっ。畜生っ。こうなったら攻撃魔法を使える仲間を探すか。
まあ、今は無理だけど。二人で暮らしていくだけでカツカツだし。仲間探しは余裕が出てきてからにしよう。
そう決めて、俺はギルドへと戻る。もう日が暮れかけている。
ギルドから受け取った今日の報酬は2500ラピス。昨日に比べれば遙かに上出来だろう。
昨日と同じ宿屋に戻った俺達は、1階の酒場で食事をとったがこれが不味かった。だから他の店でとり直した。予想外の出費だ。
昨日よりはマシとはいえ稼ぎはたった2500ラピス。
宿代が一人一日200ラピスということを考えるともっと稼がないときついか。
さて、明日のために寝よう。
俺は早めに眠った。
そして、5日くらい同じような日々を繰り返した。徐々に金も貯まり始め、俺とレミィの存在も街の人々に認知され始めてきた。
そしてその日の夜、思わぬ客が宿に尋ねてきた。
ノックされたからドアを開けると、そこには一人の老人がいた。杖をつき、かなりの年齢だと思われる。その老人に俺は見覚えがあった。
結構な頻度でギルドに依頼に来る人だ。話したことはないが顔は何度か見たことある。
「なんだいじいさん。俺に用か?」
「お前さん最近よく頑張ってるそうじゃねぇか。」
老人は嗄れた声で言った。
「まあな。」
適当に相槌をうつ。
「噂によるとお前さん、何でも珍しいものを探してるようじゃが?」
「ああそうだよ。よく知ってるね。」
「珍しいものに興味があるというのなら、どうだ儂の話に乗らねぇか。」
老人は言った。どうやら俺と交渉しに来たようだった。
「依頼があるならギルドに頼めばいいだろう。何で直接言いに来たんだ?」
「それはのう、お前さんにしか頼めんことじゃからじゃ。」
「俺にしか頼めないこと?」
「そうじゃ。悪い話ではないと思うぞ。儂も得するし、お主も得をする。」
悪い話ではないといいつつも、老人は明らかに悪そうな顔をしている。
「とりあえず話だけ聞かせて貰おうか。」
俺は老人の話に耳を傾けた。