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第六話

「・・・・・カ・・・・リ・・・。」

「・・・・・・カ・・・リ・・ヤ・・。」

「カ・・・ヤ・・・さん。」

旅立っていた俺の意識は何者かの声によって呼び戻される。

次第に霞がかった意識が鮮明になってくる。

目を開けるとそこには俺の顔をのぞき込むレミィの顔があった。

そして頭の下には何やら柔らかいものが。

そこで俺は状況を察した。これはまさか膝枕!?

「イタっ。」

「イテッ。」

すぐさま起き上がろうとして俺とレミィは頭をぶつけ、互いにおでこをさする。

「すまん。大丈夫か?」

「はい。カリヤさんこそ大丈夫なんですか?随分と長い間眠ってましたけど。それに体も傷だらけでしたし。」

そういやあれから気を失ってたんだった。

「ここはどこなんだ?」

視界には見晴らしのいい草原が広がっており、心地のいい風が吹き付けてくる。

「クィリナールの街の近くの丘です。ここまでくれば私の呪いでも魔物は寄ってきませんから。」

レミィが穏やかに言った。クィリナールとは恐らく俺がいた街の名だろう。

「わざわざここまで運んできてくれたのか。ありがとな。でもなんでここじゃ魔物に襲われないんだ?」

「知らないんですか?この世界にはどんな小さな村だろうと魔物除けの結界が張られているんですよ。ここは街の外ですが一応領地内ですので結界の範囲内。だから安全というわけです。」

 なるほど確かに街の中まで魔物がきたら大変だもんな。対策するのは当然だろう。

「じゃあお前の呪いって別に皆に迷惑かけるわけじゃないよな。だって結界の中にいれば魔物は入ってこないんだろ?それなのになんで村を追い出されたんだ?」

「それは・・・私の村は非常に小さな村で結界の力も他と比べると弱かったからです。ですから私の呪いの方が勝ってしまい、魔物が次々と結界を破って入ってきたんです。しかも山奥の田舎でしたから強い魔物が周囲にたくさんいて・・・村は大変なことになりました。」

涙ぐみながらレミィは答えた。

まずい、触っちゃいけないことを聞いてしまったか。心の中に罪悪感がこみ上げる。

「ああ、悪ぃ。そりゃ辛かったよな。」

俺は慰めるように彼女のフサフサの耳がついた頭を撫でる。決して以前から触りたかったからではないといい訳しながら。

その時グゥーと二人のお腹がなった。

「お腹・・・空きましたね。」

レミィが恥ずかしげに言う。

「そうだな。帰って飯でも食うか。ついて来いよ。」

「ええっ。いいんですかっ。」

レミィは目を輝かせる。

「当たり前だろ。俺達はもう仲間なんだからさ。何度も言わせるなよ。」

気がつけばもう日が暮れかかっている。

俺達はクィリナールの街へと向かった。




 「ふぁ~あ。遅いわねぇあの人。」

クリィナールの街にある冒険者ギルド『眠れる子鹿亭』の受付嬢、シャーリーは欠伸しながら思った。

もう出かけていた殆どの冒険者が依頼を済ませて報酬を受け取りに来ている。だがあと一人だけまだ報酬を渡してないものがいる。今日登録したカリヤマサトとかいう変な名前の駆け出し冒険者である。

最近多いのよねぇ、ああいう名前。流行なのかしら。

 これまでに何度か似たような名前の人が登録しに来ていたことを彼女は思い出す。

はあ・・・遅いわねぇ。苦戦するにしても時間かかりすぎ。これじゃあ今日は取りに来ないかもね。そう思った矢先、扉が開いた。

現れたのは例の少年である。そして見知らぬ獣人が隣にいる。誰だろう?

「お帰りなさい。随分と遅かったですね。そちらの方は?」

「この子はレミィ。坑道で出会ったんだ。そして俺の仲間になった。」

「では冒険者として登録しておきますね。」

獣混じりを仲間にするなんてと思いながらも態度には微塵も出さずにシャーリーは言った。

「ちゃんと倒してきたぜ。10体と言わず大量にな。」

「そうですか。たくさん倒したからといって報酬が増えるわけではないですよ。」

「分かってるさ。でもいいんだ。コイツが手に入ったからな。」

俺は懐から凝血石を取り出そうとする。しかし物はなかった。

「あれっ。おかしいな。」

「凝血石なら私が持ってますよ。」

そういや彼女に見せたんだっけな。

レミィは胸元から赤い六角形の石を取り出す。

うおおおおおおいっ。そんなとこにしまってたのかよ。けしからんっ。

俺は彼女から凝血石を受け取ると、手の平に載せて受付の姉さんに見せる。

「えっ、まさか本当に手に入れたんですか!?冗談で言っただけなのに。キャアーッ。これが凝血石!!初めて見た。すごーいっ。こんなに綺麗なのねーっ。まるで宝石みたーいっ。」

思いの外お姉さんははしゃいだ。

そしてなんの騒ぎかと依頼終わらせてたむろしていた周囲の冒険者も近寄ってくる。

「これが噂の凝血石だぜ。見るのはいいが触るのはよしてくれよ。」

俺は凝血石を皆に見せびらかす。

「おおっスゲー。」

「初めてみた。」

「私も。」

「ところで凝血石ってなんだ?」

口々に感想を言う冒険者達。俺の周りには瞬く間に人だかりができた。まるで人気者になったような気分だ。こうしていると今までの努力が全て報われたような気がする。

最初元の世界に帰れないと分かったときは途方に暮れかけたが、この世界も案外捨てたもんじゃないかもしれない。

どうせ元の世界に戻れないのなら、だったらこの世界で満足するしかねぇ!!!

俺はこの世界で生きていくことを心に決めたのだった。


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